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昼夜を問わず、青白く光り輝く半球ドームの中にそびえるシティの高層ビル群は、周囲を地にへばりつくようにして取り巻くタウンの、どこからでも視界に入った。その中には、こことは全く違った世界がある。決して手の届かない、世界が。

シティに市民権を得られない無産市民、シティを追われた者達は、その周辺に残された前時代の町、タウンに住まわされた。人類の敵によって無残に破壊されたままの、スラムの路地裏で、少年は必死に生きていた。

少しばかりの金のために、求められればどんな仕事でもしてみせた。それだけでは足りず、盗みを働くこともしばしばだった。夜には、憂さ晴らしに歓楽街にやって来たシティの中産階級市民に、身体の自由と尊厳を売り渡すこともあった。
まともな職につければ、それが一番だ。勿論少年もそれを望んでいる。だがここは、あまりに貧しい。




「こんにちは・・・レオンさん」
崩れかけた店の裏口から、少年は店主に呼びかける。金属部品の山の間から、それに応じる声。
「ああ、ジョイス。・・・久しぶりだな」
その言葉には、ここ数日の少年の行動を問うニュアンスが含まれていたが、聞こえない振りをした。

この店主によって救われた、親のない子ども達は、互いに「家族」だった。少年は、まだ幼い兄弟達のために、自分が全てを引き受けなければならないと、強く思っていた。その責任は、年長者である自分にあると。そして、少しでも、世話になっている店主に感謝を表し礼をしたかった。
店主は少年の思いを十分理解していた。だから、少年の行動を咎めて、その思いを否定することはどうしても出来なかった。その意思に自分は、口出しする権利はないのだとして。
実際店の収入は大したものでもなく、少年が早くから責任感を持つようになったのも自然のことだった。

ここでは、汚れずに生きていくことは出来ない。


「俺が死んだら、」
不意に呟かれた言葉。
「お前がこれで稼げるようになるんだろうな」
僅かな報酬で、人々の生活用具を直して生計を立てている、初老の店主は言った。彼は最近、病がちになっていた。
「止めようよ・・・そういうの。俺、まだ、あなたから教わらないといけないこと、沢山あるんだから」
彼に拾われてからずっとその手伝いをしてきて、実際、驚くべき速さで吸収された技術はもう殆ど変わらない程だったが、それだけでは追いつけないように少年は感じていた。




タウンの貧しい者にとっては、シティからの廃棄物は宝の山だった。少年はいつものように機械類を物色していると、折れ曲がった雑誌が手に当たり、何となくそれを開いた。字が読めないだけに、得られる情報量は少ない。パラパラとページをめくっていくと、特集だろうか、全面写真が目に留まった。
全身を武装し、ポーズを決めたヒーロー・アムドライバー。
興味深く、そのギア類の紹介写真を観察する。彼らの活躍は何となく知っていて、人並みに憧れを持っていた。
けれど、一つどうしても消えない疑問があった。


侵略者、破壊メカバグシーンから人類を救うヒーロー。

それでは、どうしてこんなことになってしまったのだろう。




どうして彼らは、自分達を救ってくれないのだろう。