episode a













「悪い、お前、名前何だっけ?」
以前会った時に聞いた筈なのに、どうしても思い出せない。青年は尋ねた。
少年は笑顔で答える。
「はい、ジョイ・レオンっす。どうぞよろしくっす」
喜び―――この少年に相応しい名前だと、青年は思った。
「ジョイ・レオン・・・だけか?」
「名字、分からないから。おかしいでしょう」
「いや、そんなことは。しかし変わってるな、それは女の名前だろ」
「ええ。名付け親が、」
一瞬、少年は遠くを見るような目をした。しかしすぐに続ける。
「・・・変にいい加減な人で。俺はもう慣れちゃったんすけど」
呼ぶ側はどうなのかな、と言って。



あの店主は、いつも「ジョイス」と呼んでいたけれど、愛称の「ジョイ」の方が自分としては好きだった。

せめて、名前だけでも、希望あるものを、と。そして自分を育ててくれた、あの忘れ得ない人の名前をもらって。
自分で自分につけた、新しい名。



「よし、今日は歓迎会だ。早速飲みに・・・は駄目だな、ピザでも食いに行くか、ジョイ!」
少年と青年は連れ立って、歩き出した。