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不合理な信念 / Sugito Tatsuki







「あなたを愛したいんだ」

青の間で持つ、あなたとの特別なひとときが好きだ。それはあなたも同じで、僕を待っている。
大丈夫だ、言わなくても分かる。何も言わなくて良い。あなたのことは全て、分かっている。
あなたの身体も、あなたの感覚も、あなたの精神も、全てあなたは僕の思うがままだ。

あなたが拒絶の言葉を発して、微笑ましくも抵抗してみせて、けれどそれは本当は求めて、欲しくて堪らないことの裏返しなのだと、僕はちゃんと知っている。
だから、そんな表面上の反応を真に受けたりなんてしないし、気にも留めないけれど、まるで無駄なことを試みる様子が、とても愛しい。
淡い照明に藍色の影を受けた、あなたはまるで幻想のように美しい。
乳白光を反射して、いよいよ白を際立たせるシーツに手をついた。

「こうされるの、嫌いだものね、あなたは。自分のコントロールがきかなくなるから。
でも好きなんだ。どんな風になっても、僕のせいに出来るから。だから、もっとしてあげるよ」

長手袋を外した手をすべらせて直接に感触を楽しむのが好きだ。
あなたが恥辱に頬を染めて、潤んだ瞳で健気にも睨みつけてくるのが愛しい。

「出来なかったんだ、今まで誰も? それは皆、あなたを畏れていたんだよ。
あなたを愛していたかも知れないけれど、本当は怯えていたんだ。
だから出来なかった、そうだろ?」

衣服が擦れあい僅かに音を立てる。
耐えようとして、けれど出来なくて、わななく唇からこぼれるあなたの吐息の熱が愛しい。

「僕もはじめ、そうだった。あなたを何か、近寄り難い神聖なものだと思っていた。
そんなものなんかじゃなかったのに」

早い呼吸に混じる、掠れた苦鳴まじりのあなたの声が愛しい。

「知っているのは僕だけってことか
──嬉しいかも」

あなたが叱責して、罵倒して、次第に懇願するのが愛しい。
あなたが震える指を僕の腕にかけて、背中に爪を押し付けるのが愛しい。
息を呑んで、目を閉じ眉を寄せて、脚をびくりと跳ねさせるのが愛しい。
どうしようもなく声を堪え、涙を落とすのが愛しい。


愛しくて愛しくて、
もっと欲しいから、もっと与えたくなる。

ああ、本当に、
僕はあなたが大好きだ!



あなたをこんな風に出来るのは僕だけだ。何だって思い通りに出来る。

けれど、
どうして口を開きかけるのだろう。
どうして瞳を揺らすのだろう。
どうして、そんな訴えかけるような表情をするのだろう。

そんなに口を塞いで欲しいのだろうか。そんなに目を塞いで欲しいのだろうか。
僕はこんなにも、あなたを思って、あなたを出来るだけ望むようにしてやりたいと、それで頑ななあなたに協力してあげているのに、まるであなたは意地を張る。
たまには素直になったらどうなんだ。どうせあなたは僕の思うがままなのだから。

「嫌だっていうなら、逃げれば良いじゃないか。出来もしないくせに、そろそろうるさいよ」

本当にやめてやろうかと、意地の悪い考えが浮かぶ。ひどくされるほどにあなたは高揚を覚えるらしいから、そうしてあげたほうが良いのかも知れない。けれど僕はそこまで加虐嗜好でないから、あなたにそんなひどいことはしない。

ちゃんとあなたを思い、一番良いようにしている。どうしてこの優しさが分からないだろう? 

これほど尽くしてやっているのに、これは互いに望んだ、この上なく崇高な行為なのに、こんな時に眼振(ニスタグムス)なんて、全くどういうことだ。目移りされているようで気に障る。不可抗力といえ、そう身体の不具合を見せつけられては興醒めだ。

シーツに顔を埋めると、ひんやりとした感触が、熱を持った身に心地良い。

「もうソルジャーじゃないとか言ってたけど、ただのブルーですらないじゃないか、あんたは」

補聴器に指をすべらせ、髪をかきあげる。
どうにも腹立たしくなってきた。



そう、全く、こんな時だというのに、


どうしてあなたは不在なのだ(.............)

どうして僕はこの空間にただひとりなのだ(...................)

どうして僕は冷たいシーツを撫でているのだ(....................)



ソルジャー・シンは、主を失って久しい青の間の寝台にひとり、うずくまって何者かに語りかけるように呟いていたが、最後に深く息を吐いた。それから、身を起こし、さっさと寝台を降りた。

──いくら過去の記憶をつないで、望むものを再構築しようと試みても、いつも楽しめるのは最初だけで、上手くいかない。こんなものは彼じゃない。こんなものは要らない。

激務を果たすために限りなく不要な時間を切り詰めるソルジャー・シンに許された空白の時間は3分間であったので、彼は残り1分を今後の戦略方針のシミュレートに充てるため、他愛ない空想から素早く頭を切り替えた。

冷徹な指導者は、人類との次なる戦闘に備えて、予測される敵陣形をいかに効率良く崩すか、戦闘員投入のタイミング、また目標へ到達した際に効果を最大限に発揮し得る声明文の文言らについて、忙しく思考を始めた。




End.















ますますどうしようもない駄目な大人になってしまったジョミー。妄想力はミュウ随一です。



2007.08.09


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