saihate no henkyo >> 地球へ…小説



fi-lament / Sugito Tatsuki







[0]


あなたがたの中で、第一の者となるのなら、まず全ての人の下僕となりなさい。
彼がかつて、仕えられる者としてではなく、仕える者として、またその命を人々の贖いの代償として与えるために、やって来たように。





[1]


僕の愛したあなたは最早、破砕されて、ひとつも残らなかった。

僕の梳いたあなたの髪、
僕の舐めたあなたの瞼、
僕の掴んだあなたの肩、
僕の傷つけたあなたの脚、
僕の口づけたあなたの背、

僕の愛した、あなたの全てが、


あなたはばらばらに解けて、もう手が届かない遥か彼方まで空間のある限り拡散して、拾い集められずに、僕は捉えられなくなってしまった。
あなたの手をとっていることが出来ず、そうしている間に、完全に分かたれてしまった。


あなたがかわいそうだ。


僕は、あなたをまた、ひとりにしてしまった。
あなたを、暗く深い宇宙に、あんなところに、残してきてしまった。


あなたは、本当に、ソルジャーだからという理由のために、自らを犠牲にしなくてはならなかったのだろうか。上に立つ者だから、ただ、それだけのために、人々を護り、命を贖い、全て抱えなくてはいけなかったのだろうか。

違う、そうではない。

その時、あなたは百匹の羊の群れを導く牧人ではなかった。あなたもまた、他の九十九匹と同じ、羊だった。この羊たちに牧人はない。だから、一匹の羊は仲間を導かなくてはならなかったし、同時に生贄として捧げられなくてはならなかった。あなたの死の代償でもって、皆が贖われることを、あなたは知っていた。


あなたがとても、とても細かに解けたのなら、それが均一に拡散したのなら、地球にも届いただろうか。
この宇宙のどこにあっても、僕は僅かにあなたの一部を含んだ空間に抱かれていると、考えていいのだろうか。

──そうしたら、誰より近くいられる。




[2]

死者の意志など語るのは無意味だ。
それは生者の勝手に過ぎない。
死はその時々に都合よく再解釈され、運用される。
世界は生者のものだからだ。

痛みだけが、今や、残された彼だ。その痛みが愛しい。彼を確かに、己の内に感じられる。
彼が自分に何か為してくれるというのなら、それは痛み、それだけだ。
それとて、直接というよりは間接的にもたらされる。
痛みは外的なそれではない。内から生起する。
すなわち、彼は、己の内より、そのためだけの特別な痛みを、情動を、呼び起こすトリガーなのだ。

彼が傷を与えてくれることを、かつて望んだ。
笑えるくらいに安易だけれど、必死だったのだ。
証が欲しかった。そうでなければ耐えられないと思った。
けれど彼は拒んだ。
君が損なわれるのは、僕の望むところではないと言った。

彼は言った。
証がないと覚えていられないことなんて、覚えているに値しない些細なことに他ならない。
覚えていなくて良いから忘れるのに、何故あえて逆らう。
覚えていられないなら忘れてしまえば良い。

傷は、見えなければ、ないのだ。

だから、彼は傷は残さなかったけれど、已まぬ痛みをもって、今なお、ここにある。




[3]

どうかわたしに頼ってください。
わたしをあなたの支えとして、
寄りかかる杖としてください。
あなたが歩くとき、わたしの腕をとって、
その脚を折らないでください。

地に伏せないでください。

どうか、わたしの右手があなたの背を支え、
左手があなたを抱くように。
わたしがあなたの隠れどころであるように。

その骨が決して、砕かれることのないように。




End.















ブルー哀悼ポエム集。多分[1]がジョミーで[2]がソルジャー・シンです。
([0]...World English Bible (http://ebible.org/), Mark 10:44-45 より訳出)


2007.08.10


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