少年はヴァイオリンの声(プレビュー)









夢を見ていた。
夢の中で、エレンは鳥だった。蒼穹を自在に滑空する、力強い翼と、獲物を屠る鋭い鉤爪を備え持った鳥だった。
エレンは、白い鳥を見ていた。からだが小さくて、飛び方もどこか弱々しい、やせっぽちの鳥だった。襲い掛かれば、簡単に捕まえられそうだったが、エレンはそうはしなかった。
白い鳥は、時折、歌を紡いだ。小さなからだから流れ出す歌は、きれいに透き通っていて、森を渡る風が木々を揺らす音や、穏やかな小川の水音と調和した。
エレンは、それに耳を澄ませる。自分には出せない、あんな声を持っている、白い鳥は、代わりがきかない。だから、食ってはいけないと思う。
エレンが聞いているときだけ、白い鳥は歌う。白い鳥の歌は、エレンのものだった。
ある日、森に人間がやってきて、あちこちに罠を掛けた。エレンは、注意深くそれを観察し、引っ掛かることのないよう、器用に合間をすり抜けた。
白い鳥は、それに続こうとして、しかし、出来なかった。罠に掛かった白い鳥は、やってきた人間にぽきりと翼を折られて、籠に入れられた。この中で、一生歌わせるのだという。
あんなきれいな声を持っていなければ、連れていかれることもなかったのに。思いながら、エレンは、彼らを見送った。細く歌う、きれいな声が、遠ざかっていくのを、見送った。







いつもの畑からの帰り道、荒野に佇む開拓民の集団が目に入った。彼らは、石を拾ったり雑草を抜いたりの作業に従事しているのではなかった。互いの腕を組み合わせ、三重の輪を描く独特の隊列を形成し、全員がきつく目を閉ざしている。そして、一人の先導で、彼らは声を合わせ、旋律を紡ぎ始める。
「また歌ってんのか、あいつら……」
その様子を横目に、エレンは呟く。一日の仕事を終えて、早く帰って休めば良いのに、ご苦労なことだと思う。
真摯な面持ちで、あるいは苦しげに、嘆くように、祈りを込めて、一心に、彼らは歌う。壁を絶対視し、神として崇め奉るその歌詞は、エレンにはただ空々しく感じられるばかりだった。そんな祈りで、いったい、何が変わるものかと思う。
隣の友人も、思いは同じだろう。アルミンは小声で解説する。
「歌は、誰でも覚えて、仕事の合間にも、自然と口ずさめる。教義を、ああして歌に乗せることで、伝え広めようとしているんだ。信者の結束力も強まる……説法よりも、余程効率が良い」
神の栄光を、高らかに讃えて歌う彼らの声は、硬質で、圧迫感があり、アルミンの柔らかなそれとは、まるで違っている。
「オレは、いつものがいい。歌ってくれよ」
他の人々の歌が聞こえない場所まで離れて、並んで座った。アルミンの歌は、向かい合って聴くよりも、肩が触れる距離で、隣り合って聴くのが、エレンのお気に入りだった。
故郷の歌を、アルミンは求めに応じて、何度も歌ってくれた。繰り返し聴いた、素朴な旋律。その中に、エレンは、失われた我が家の欠片を、懸命に探し求めた。しかし、それは掴む暇もなく、浮かんでは、儚く消えてしまう。そんなものは、もう、どこにも存在しないのだと、思い知らされる。分かっている、そんなことは、とエレンは首を振った。
ふっと歌が途切れる。こちらを見つめる、アルミンの表情が曇る。エレンが、浮かない顔をしているからだ。まるで、その責任のすべてが自分にあるかのように、アルミンはうなだれる。
「……ごめんね。昔みたいに、歌えなくて」
「いや……オレも、あの頃みたいには、聞けねぇから」
同じ歌を口ずさんだところで、あの頃には戻れない。それだけが、はっきりと分かった。歌うほどに、それは、今ここにはない、失われた過去であることを思い知らされるばかりだ。
しかし、だからといって、エレンはアルミンの歌を、聞きたくないとは思わなかった。
「でも、オレは、アルミンの歌が好きだ」
そのことに、変わりはなかった。それを、アルミンに分かって欲しかった。
肩を抱き、鼻先が触れ合うくらいに近付いても、アルミンは逃げなかった。不思議そうに、目を瞬いている。ぐ、と顔を近寄せて、唇を触れ合わせた。軽く、押し当てて、すぐに離れた。
「……エレン? なに、今の……」
「別に、何でもねぇよ」
なんだか、気恥ずかしくて、ふいとそっぽを向く。何でもないはないだろう、とエレンは自分にあきれてしまう。アルミンは、暫く、唇に指を当てて、神妙に考え込んでいるようだった。それから、あ、と声を上げる。
「僕を、慰めてくれたの?」
「……まあ、そんなところだ」
「そうなんだ。ありがとう、エレン」
アルミンは小さく微笑む。ああ、やっと笑った。内心で、エレンは安堵した。どうやら、慰めには効果があったらしい。
もっと触れてやれば、もっと笑ってくれるだろうか。それを、エレンは確かめてみたいと思った。
「……アルミン」
「ん、……」
顔を寄せて、もう一回、重ね合わせようとした、そのときだった。土を踏む足音と、何人分かの話声が、二人の間の静けさを破った。
「ああ、いたいた。あの金髪の子どもです」
そんな声がして、見れば、二名の大人が、こちらに向かってくるところだった。ひとりは、開拓民の統率を任されている中年男。もうひとりは、一角獣の紋章をあしらった兵服に身を包んだ、若い男だった。怜悧な眼差しが、品定めをするように、幼い子どもの頭から足先までを辿る。
「おい、お前だよ」
何が起こっているのか分からずに、戸惑うアルミンの腕を、中年男が無造作に掴む。アルミンの表情に、怯えと痛みが走る。構わずに、男は荷物を扱うようなぞんざいさで、小さな身体を引き起こした。思わず、エレンは立ち上がって、男の腕に掴み掛かる。
「なんだよ、何するんだ! アルミンを放せよ!」
「どいてろ、用があるのはこっちだ」
煩わしげに、男はエレンを振り払い、突き飛ばす。エレン、とアルミンの小さな悲鳴が上がった。尻餅をついて呻くエレンに、アルミンは手を伸ばそうとするが、男に引き戻されてしまう。男は身を屈め、アルミンに顔を寄せる。
「お前、歌が得意だろう? 視察においでの憲兵さんのために、今晩、ひとつ歌って差し上げるんだ」
馴れ馴れしい手つきで、小さなアルミンの肩を撫でさすりながら、男は妙に優しげに語り掛ける。思わぬことに、アルミンは困惑の表情を見せた。
「僕、そんな、ちゃんとした歌なんて、」
「いつもので構わんよ。さあ、行こうか」
もとより確定事項であるかのように、男はアルミンの手を引いて、若い憲兵のもとへ連れて行こうとする。自らの手を汚すつもりはないといった態度で、憲兵は不遜に腕組をし、献上品が捧げられるのを待っている。
行かせてなるものかと、エレンは身を起こして吠える。
「アルミンは疲れてんだぞ! 何で、こんな奴らのために、」
アルミンのじいちゃんを殺した、こんな奴らのために──エレンは、そう怒鳴るつもりだった。そんなこと、アルミンにさせてなるものかと思った。何としてでも、友人を守らなければと、己を奮い立たせる。
しかし、エレンがそれを口にするより前に、高く澄んだ声が被せられる。
「やります、やらせてください。僕でも、憲兵さんのお役に立てるなら、嬉しいことです」
「アルミン、」
信じられない思いで、エレンは友人を見遣った。アルミンは、決してエレンの方を見ようとはしなかった。大人たちを見上げて、一生懸命に言葉を紡ぎ出す。その健気な様子が、見る者にどんな印象を与えることか、エレンはよく知っている。
子どもの従順な態度に、男たちは気を良くしたらしい。憲兵の男は、唇の端に笑みを浮かべる。
「そうだ、うまく上官殿を満足させられれば、お菓子もやろうな」
そこで、アルミンは、ちらりとエレンを見遣った。いかにも申し訳なさそうな態度で、躊躇いがちに、憲兵に訴える。
「あの、皆、お腹ぺこぺこで、……友達の分も……」
「もちろんだ」
ありがとうございます、とアルミンは安堵の表情を見せる。その表情だけは、本物だとエレンには分かった。他は、すべて偽物だった。それに気付いているのは、どうやら、エレンだけのようだった。
汚れているので、顔を洗ってきますと言って、アルミンは小川の方へと駆けていった。エレンも、それに付き添う。大人たちと十分に距離が開いたところで、エレンは、友人に異議を申し立てずにはいられなかった。
「お前、本気なのか? 何で、あんな奴らのために……」
「あいつらのために歌うんじゃない……自分のためだよ」
感情の抜け落ちた、冷静そのものの声で、アルミンは応じる。澄んだ水面に手を浸し、農作業でついた汚れを洗い落とす。
戦いもしないくせに、まるで自分たちが世界の王であるかのように振舞う、あんな連中のために、アルミンが支度をするというのが、エレンは気に入らなかった。そんなエレンを宥めるように、アルミンは淡々と紡ぐ。
「歌うだけで、パンが貰えるのなら、乗らない手はないよ。大丈夫、うまくやる……これくらいのこと、出来ないと、……」
最後は、自分自身に言い聞かせるように、アルミンは呟いた。唇を噛み締める。
アルミンとて、納得しているわけではない、ということは、それでエレンにも分かった。同時に、友人の心が決まっていることも、理解せざるを得なかった。それを、エレンが気に食わないからというだけの理由で、止めることは出来ない。
アルミンは着々と、泥のついた顔や手足を拭い、服の土埃をはたき落とし、髪を手櫛で整える。正直いって、変わり映えはしないが、これがせめてもの身支度である。エレンは、それを、突っ立って見守っていた。
気をつけてな、とだけ呟くと、アルミンは、心配は要らないというように、微笑んで頷いた。


[ 中略 ]


拭い去ってやらなければ、いけないと思った。誰に触れられたこともない、アルミンの内側が、押し開かれ、強引に、かき乱されてしまった。それを、エレンは元通りに、治してやらなければいけない。
「ん……、ふ、ぁ、……」
エレンは丹念に、アルミンの口腔を探った。指を入れれば、きっと、辛い記憶を蘇らせてしまうだろう。だから、舌を使って、舐め取った。やり残しのないように、くまなく、丁寧に、内壁をなぞった。
アルミンの中で、エレンに触れられていない部分が、一カ所でもあってはならなかった。すべてが、エレンによって、塗り替えられなければならなかった。
オレが治してやる、だから大丈夫だと、言い聞かせるように、舌を絡めた。思いが通じたのか、おずおずと、アルミンもそれに応じてくる。お互いに、息を乱して、柔らかな部分を擦り付けあった。くちゅ、くちゅと音を立てて、お互いが混じり合っていくのを感じる。
「っ、は……エレ、ン……」
「……アルミン」
苦しげな声に、エレンは一旦、身を離した。アルミンの頬は淡く色づき、目を伏せて、乱れた息を継いでいる。その濡れた唇に、エレンは静かに指先を添わせた。
「こんな声、いらないって、お前は言うけど……オレにとっては、いらなくなんて、ない」
「僕の声、だよ。エレンには、関係ない……」
「ある。お前の声、一番聞いてるのは、オレなんだからな。だから、お前の声は、お前だけのものじゃなく、オレのものでもあるんだ」
我ながら、むちゃくちゃなことを言っていると思った。しかし、エレンにとって、それは、今思いついた嘘でも何でもなく、真実だった。
どこかで、ずっと、アルミンの声は、自分のものだと思っていた。たまたま、今、アルミンがそれを嫌ったことで、自覚させられたにすぎない。声に出してみると、よりはっきりと感じられて、それが自明の理であるかのように思えた。
オレのものだ、と、エレンは友人を抱き締める。エレンの腕の中で、すすり泣くアルミンの声は、歌だった。エレンは眼を閉じて、耳を傾ける。
「お前はオレにだけ、歌ってくれればいい」

その日から、アルミンの歌は、エレンのものになった。



[ 中略 ]



「おい、アルミン、大丈夫か?」
既に酒が回ったか、あるいは、単に疲れているのか、ぼんやりとテーブルの木目を見つめている友人の肩を、エレンは軽く揺さぶった。あ、とアルミンは小さく声を上げて、目を瞬く。やっと意識を引き戻されたようだった。あまり大丈夫ではなさそうだな、とエレンは冷静に診断する。
「お前、すぐ酔っちまうんだから、あんまり飲むなよ
「うん……分かって、」
アルミンのか細い声が、最後まで紡がれるより先に、ゆらりと二人に不穏な影が落ちた。おや、と後ろを振り向く暇もなかった。
次の瞬間には、背中から圧し掛かるものの衝撃に、ぐ、とエレンは呻きをこぼしている。うわ、とアルミンの悲鳴が上がった。そこへ被さってきたのは、陽気な笑声だ。
「エレン、アルミーン! 飲んでるか? っておいおい、全然じゃねぇか! ほらぁ、飲め飲め、もっと飲め!」
背中から二人を抱え込み、ばんばんと肩を叩く、坊主頭の同期は、すっかりご機嫌である。言っている傍からこれだ、とエレンは小さく舌打ちをした。
「……こういうのは、無視していい」
「う、うん……」
盛大な溜息と共に、エレンは絡み付いてくるコニーの腕を振り払い、アルミンからも引き剥がした。こいつ頼む、と手近なところにいたライナーに、酔っ払いの面倒を押し付ける。
ちょうど、そのとき、一角から拍手が上がった。歓声も聞こえる。どうやら、喉自慢の連中の誰かが、一曲を終えたところらしかった。野次ではなく拍手を受けて終えるとは、それなりの出し物だったということだろう。
「やるなあ、ジャン」
「まあな。母さ……うちのババアがせがむもんだから、昔から仕方なく、歌ってやってたしな」
そんな遣り取りが聞こえる。
そこで、唐突に身を起こしたのは、ライナーに預けた酔っ払い坊主だった。何を思ったか、コニーは、素晴らしい思い付きを得た顔つきで、こちらに向かって呼び掛ける。
「なあなあ、アルミン! お前も一曲、歌ってくれよ!」
「えっ……
いきなり大声で指名されて、アルミンはびくりと肩を跳ねた。まさか、自分に矢が飛んでくるものとは、思いもしなかったのだろう。周りからも視線を浴びていることに気付くと、慌てて首と両手を振る。
「い、いや、僕は……」
「いいだろ、俺ぁアルミンの歌が聞きてぇよ、お前なら、あいつに勝てる気がするんだよぉ!」
いつの間にか、勝ち負けの話になっている。酔っ払いの考えることは分からない。しかし、周りの連中は、調子よくそれに賛同した。
「お、良いじゃねぇか、やってみろよ」
「女みたいに高い声も出せるんだろ?」
じゃあ、女装も頼むぜ、とどこからか野次が飛ぶ。少年たちは、どっと笑った。
何も知らないくせに、とエレンは今にも怒鳴りそうだった。半ば、椅子から腰を浮かしかけていた。両隣のミカサとアルミンが、押しとどめるように、腕を強く引いてくれなければ、実際に口に出していたかも知れない。
アルミンが、その声のために、どんな目に遭ったか。どんな思いで、歌を棄てたか。それを言うことで、アルミンが更なる好奇の視線に晒されるだろうことも、激昂したエレンの頭からは抜け落ちていた。
アルミンが、きゅ、ときつく腕を握る。エレン、とミカサが小声で諌める。分かってるよ、とエレンは溜息と共に、腰を落ち着けた。なおも、しつこく歌を求める同期たちに、無理やり椅子から立ち上がらされたところで、アルミンは、困り顔で頭をかく。
「その、僕は、遠慮しておくよ。人前に出るの、得意じゃないし、歌なんて……本当に、全然声が出なくて、調子外れで、ひどいんだ。きっと、水を差してしまうから……」
アルミンは自信なさげに肩を丸め、俯きがちに、おどおどと紡ぐ。いっそ哀れみを誘うほどの、その態度は、誰しもに、これは謙遜ではなく、偽りのない事実を言っているものと思わせるには、十分であった。
まあ、そうだろうなと、何人かは納得の面持ちで頷く。なんだ、つまんねぇのと、興醒めなことを言うアルミンを責めるように見る連中もいる。そいつらを、エレンは一人ずつ、胸倉を掴んで殴りつけてやりたい衝動を抑えるのに苦労した。
アルミンの口から、こんなことを言わせなくてはならないのは、耐え難かった。それでも、ここで自分が異を述べれば、すべて台無しになってしまうことは、分かっていたから、必死で耐えた。
一番、屈辱を感じているのは、アルミンの筈だ。皆の前で立たされ、意に沿わぬ告白をしなければならない、その葛藤は、いかばかりであろうか。そのアルミンが、自制しているのだから、自分が我慢出来ないでどうする、と思う。ぐ、と拳を握り込み、落ち着け、と己に言い聞かせる。
しかし、エレンの懸命な努力は、ほどなくして、無用となった。
「そうだろうなぁ。こんな、蚊の鳴くような声で歌われてもなぁ」
せせら笑う男の、耳障りな声が、耳を打つ。赤ら顔の同期が、ジョッキ片手に、アルミンを見下ろすように佇んでいる。何かというと、アルミンを小馬鹿にし、見下すことによって、日々の鬱屈を晴らしているらしい男だった。確か、成績は、中の下程度であったと記憶している。
エレンとしては、余計なちょっかいを掛けてこないよう、一度痛い目に遭わせてやるべきだと考えているのだが、アルミンがそれをよしとしないから、今のところは実行に移してはいない。
アルミンのことで、エレンやミカサがしゃしゃり出れば、確かに、その場は収まるだろう。抑止力としての効果は、十分である。しかし、腕の立つ友人に頼り切っているとして、ますますアルミンは、要らぬ反感を買うことになる。厄介事を招くきっかけにならないともいえない。
その理屈は、一応はエレンも理解している。アルミンを半人前扱いすることは本意ではないから、本当に必要なとき以外、出来るだけ、手助けはしないようにと心がけている。
ただ、そうして、表立ってエレンが動こうとしても、アルミンがそれを止めるから、手を出すことが出来ない、という構図を理解している連中は、心置きなく、アルミンにちょっかいを掛けることになる。
劣等生に劣等生と言ったところで、それは事実であるから、侮辱にはならない。もしも、エレンが手を出せば、それはエレンに一方的に非があると見做され、罰せられることになる。アルミンが、友人をそのように巻き込むことを、良しとするわけがない。黙って、向けられる悪意を受け容れるだけだ。
今がまさに、その良い例だった。アルミンは、言い返すでもなく、少し困ったような顔で佇んでいる。そうだ、そうしてやり過ごすのが、一番効率的であることを、アルミンは知っている。言いたいことを、言わせておけばいい。そのうち、飽きてやめるようになる。それまでの辛抱だ。
何も言い返されないことで、良い気になったのだろう。男は、アルミンの薄い胸元を小突く。
「挽歌がお似合いだ。それも、歌う側じゃなく、歌われる側になる方が、早いだろうがな」
アルミンの青灰色の目が、見開かれる。あ、と唇がわななく。侮辱の台詞に反応したのではない。その視線は、今まさに制止を振り切って椅子を蹴倒し、拳を振りかぶる、エレンだけに向けられていた。




[ to be continued... ]
















スパコミ新刊『少年はヴァイオリンの声』プレビュー(→offline

2015.05.02

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