或る訓練兵の恋(プレビュー)










一歳年上の兄が、同じ訓練兵団に所属しているという事実を、俺は同期の誰にも口外していなかった。兄も、俺の存在については黙っているはずで、それは、ここへ入ると決めたときに、俺が望んだことだった。
既に兄が入団していると知られれば、当然、何かと便宜を図って貰っているに違いないとの憶測を生む。前年の課題や試験の内容を入手できるというだけでも、随分と有利に働くのだ。だから、少年たちは人脈作りに精を出し、情報収集に余念がない。
兄に頼っていると陰口を叩かれることも、また、それを利用しようとして近付かれることも、俺はごめんだった。なにより、自分に対して、そのような逃げ道を用意しておきたくはなかった。いざというとき、頼れる当てがあるという甘えは、自分を腐らせるだけだ。
自分がここへ来たのは、兄の影響などではなく、自らの意思で決めたことである。俺は、ひとりでも十分に、やっていける。そう、信じていたかった。
その誓いを、俺は今、早速に破っていることになるのだが、別に、不当な利益を得ようなどという考えはないのだから、許容範囲内であると勝手に結論づけた。
そう、これは、兵士としての本分とは、まるで関係のないところにある、ただの雑談だ。それ以外の何物でもない。
「それで、何なんだよ。深刻な顔して」
脇に積んだ木箱に、ひとまず腰を下ろして、兄は問うた。何と言ったものか、俺は迷いつつ答える。
「変なことを訊くが、……兄貴、アルレルト先輩とは、親しいか?」
「アルレルト? いや、特には。そんなに口をきいたこともねぇな。どうしてだ?」
半ば予想していたことではあるが、その答えに、俺は落胆を覚えずにはいられなかった。これで、兄貴が実はアルレルト先輩と無二の親友なのだ、などということであれば、話は実にスムーズに運ぶところだった。現実はそう都合の良いものではない。
溜息が出そうになるのを抑えて、俺は説明する。
「いや……この前、立体機動装置の整備、教わったんだが……その、また話せないかと、思って……」
「何だ、よく分からないところでもあったか? 俺が見てやってもいいぞ」
「そういうことじゃなく……つまり、個人的に、……」
自分でも、言っているうちに気恥ずかしくなってきた。頬が熱い。何と言っていいか分からずに、俺は言葉を詰まらせた。相変わらず首を捻っている兄貴に、いいから分かれよ、と胸の内で八つ当たりをする。
それが通じたわけでもなかろうが、やはり身内ということだろうか。兄は、俺の言わんとするところを察してくれたらしい。まさか、というような顔をした後、神妙に声を潜める。
「……言っておくが、あいつ、男だぜ」
「知ってるよ」
それが何だというのか。即答する俺に対して、お前の趣味は分からない、とばかりに、兄貴は頭をかいた。
「あいつか……別に、ぱっとしねぇ奴なのにな……ああ、でも、装置のことなら、そうか。あいつは技巧に行くんだもんな。詳しいわけだ」
「……そうなのか?」
「そりゃあ、そうだろ。本人に聞いたわけじゃないがな。あいつが、駐屯兵団だの調査兵団だので、やっていけるわけがねぇよ」
それについては、俺も同意見だった。先輩は、本人の自己申告通り、どう見ても体力勝負の兵士向きではない。自ら刃を振るうよりは、その刃をより鋭利に、強靭に、研ぎ澄ませていく方が相応しい。
戦いは、前線の兵士によってのみ為されるのではない。立体機動装置という、対巨人の画期的な武器を考案した技術者、アンヘル・アールトネンの功績があればこそ、現在、我々は巨人を相手取ることが可能となっている。その更なる発展、および、まったく新しい兵器の開発には、先輩のような優れた頭脳が必要不可欠だ。
そこで俺は、ふと気になって、先輩といつも行動を共にしている相手について問うた。
「イェーガー先輩は?」
「あいつは、入ったときから、調査兵団一筋らしい。物好きだよな」
すなわち、二人の進路は、確実に分かたれるということだ。仲の良い友人同士といっても、そこはお互い、適性だの信念だのがあるのだから、当然といえば当然である。何故だか、それにほっとしている自分がいた。
俺の胸の内を知ってか知らずか、話はここまでだというように、兄貴は首を振る。
「とにかく、俺はあいつとは、特に接点がない。悪いが、他をあたってくれ」
はじめから、期待していたわけではない。仲を取り持って欲しい、などという、恥ずかしい頼みごとをするつもりもなかった。
俺はただ、先輩について、語り合う相手が欲しかっただけだ。抱え込んだ、この思いを、誰かに打ち明けておきたかったのかも知れない。そうすることで、内外から、自分の意思を固める。考えてみれば、随分と身勝手な話であった。
そんな俺の身勝手に、兄貴は付き合わされる羽目となったわけであるが、特にあきれてはいないようだった。ふと思いついたように言う。
「というか、本人を捕まえて、直截、伝えればいいじゃねぇか」
「それができれば、苦労はしない……」
「きっと、喜ぶと思うがな。後輩から、そんな風に思われてるなんて」
兄は不思議そうに首を捻るのだった。冗談じゃない、と俺は胸の内で叫んだ。いったい誰が、自分が欲望の対象とされ、空想の材料にされていると知って喜ぶだろう。
兄貴はどうも、俺の思いを、純然たる憧憬の念として解釈しているらしかった。俺が夜な夜な、先輩を思いながら行為に耽っているなどとは、夢にも思うまい。知らない方が、身のためだろう。
念のため、俺は最後に、口止めをしておいた。
「言っておくが、今のこと、アルレルト先輩には、絶対に言うなよ」
「ああ、分かった分かった」
慰めのつもりだろうか、いずれ合同で演習にあたることにもなるだろうと、兄は言い残し、俺の背中を叩いて去った。
合同演習──兄の言った通り、自然に接触するというのなら、その機会を待つしかないだろう。先輩に教わった技術を活かし、その目の前で見事な立体機動を披露してみせることは、指導に対する一番の恩返しとなる。
しかし、はたして、それが叶うのは、いつの日のことだろうか。俺たちは、まだ、木型の訓練巨人相手に刃を振るったことすらない。一〇四期の先輩方と、肩を並べて飛べるようになるには、学ばねばならぬことが山積みである。
その間、思いを胸に秘めて、一心に兵士の本分に励むことができるほど、俺は忍耐強くはない。悠長な案を提示されたことで、俺はむしろ、気が急くのだった。かといって、アルレルト先輩へ通じるルートを開拓する術も見つからず、日々は無為に過ぎていった。



同期たちと手分けして、練兵場を整地しているときだった。そのうちのひとりが、おい、あれ見ろよ、と小声で周囲に注意を促した。俺もつられて顔を上げ、あ、と息を呑んだ。仲間たちは、俺の反応には気付かずに、なんだよ、と指し示された方向を見遣る。
林での訓練を終えてきたところか、ぞろぞろと練兵場を迂回して寮へと戻りつつあるのは、一〇四期の先輩たちであった。それ自体は、珍しい風景でも何でもない。しかし、今日は、その中に注目すべき点があった。最初に声を上げたひとりが、集団の後方辺りを、さりげない仕草で示す。
「ほら、イェーガー先輩にくっついてる、金髪の小さいの、いるだろ。あれだよ。今朝、教官が言ってた、筆記試験完全正答の化け物」
へぇ、あれが、などと少年たちは、特に目立ったところのない小柄な先達を見遣る。その視線は必ずしも、憧憬に満ちた好意的なものではなかった。
「なるほどな。あれじゃあ、実技で点数は稼げそうにない。お勉強を頑張るしかないってわけだ」
「まぁ、点数稼ぎの方法なら、他にも出来そうなのがあるけどな。可愛い顔を活かして、なぁ?」
ともすれば、自分たちより年少にさえ見える、幼い面立ちを横目に、何を想像したか、少年たちは忍び笑いを漏らした。気付かれていないのをいいことに、ほっそりとした身体を無遠慮に眺め回す。
「ちゃんと、ついてるのかどうかも怪しいところだな。だから、俺たちみたいに処理に時間を割くこともなく、お勉強に集中できるってわけだ」
「はは。ありえるな」
自分たちの頭の大半を占めるものが、人類の勝利のための崇高な使命感などではないことを明らかにしつつ、軽口の矛先は、彼らが尊敬の念を向けるべき相手にも及んだ。
「イェーガー先輩とも、つまり、そういう関係なんじゃねぇの。ほら見ろよ、あんなにひっついて、仲のよろしいことで」
なんでも、彼らは同郷の幼馴染で、身寄りがなく、アルレルト先輩はイェーガー先輩を追って、ここへ入団したものらしい、などという、どの程度信用できたものか分からない情報を誰かが開示すると、少年たちはますます色めきたった。
自分たちが注目されていることなど知りもしない二人は、ちょうど、顔を寄せて、何かを話し合っている様子だった。喧嘩以外で、野郎同士が肩を触れ合わせるなど、普通であればむさくるしく、見るに堪えないものであるが、相手が男らしさとは無縁のアルレルト先輩であるために、そう違和感のない景色に仕上がっている。
イェーガー先輩が、不機嫌そうに何か言って、アルレルト先輩は、困ったように微笑んだ。その笑顔に相応しい形容として、可憐、というのが真っ先に頭に浮かんだのは、どうやら、俺だけではなかった。立ち去る彼らを、ぼんやりと眺めていた一人が呟く。
「先輩のお気に入りっていうなら、俺も興味あるな。あれでなかなか、具合が良いのかも」
「……ついてねぇなら、俺、いける気がするぜ。ああ、俺を卒業させてくれねぇかな」
「なに、可愛い後輩のお願いとあれば、きっと、一肌脱いでくれるさ」
いざとなったら、力ずくでも、と話が不穏な方向に行きかけたが、イェーガー先輩が後ろについている以上、それはまずいだろうということになった。
こんな下品な雑談は、日常茶飯事だ。何も、本気で実行するつもりはない、その場限りの冗談である。いちいち気にするようなことではない。まして、俺の先輩を汚された、などと憤る権利は、既に先輩を素材に自涜に耽ってしまった俺にはない。
むしろ、俺は怒りよりも、衝撃を受けていた。彼らの会話から、俺は、なぜ今までこれに気付かなかったのかと、頭を殴られたような気分だった。
先輩に、俺を捧げる。
それに比べれば、俺がこれまで耽っていた行為など、他愛のない子どもの遊びに過ぎない。いつまでも、僅かに与えられた先輩の声を、言葉を、感触を、後生大事に思い出して、それに縋り、自分を慰めるなど。
俺が求めているのは、こんなものではないはずだ。仲間の軽口に、図らずも、背中を押される格好となった。
俺は、踏み出すべき一歩を、ようやく見つけたような気がした。任せられた区画の整地を、手早く終えると、いてもたってもいられず、俺は駆け出した。

/整備室

気付くと、俺はあの整備室の中にいた。目の前の作業机では、こちらに背を向けて、小柄な訓練兵が立体機動装置の整備を行なっている。麦藁色の髪をした、それが誰であるのか、俺は知っている。
「あ、アルレルト先輩!」
意を決して、俺は声を発した。先輩は手を休め、こちらを振り返る。不思議そうな面持ちで、声を掛けてきた人間を認めた先輩は、あ、と小さく唇を動かした。
「あ……君は確か、この前の、」
「はっ。先日は、たいへん失礼いたしました」
主に、突然に逃げ出してしまったことを指して、俺は謝罪したが、胸に触れてしまったことについても、幾分かは含まれている。ただ、男が男の胸に触れたことを詫びるというのは、謝られた方としても複雑な心境になるだろうから、あえてそこを取り上げることはしない。
先輩は、特に気にした様子もなく首を振る。
「ううん。メモは読んでくれた? 役に立っていればいいんだけど……」
そう喋る先輩の胸元へと、俺は気付けば、視線を引き寄せられていた。きっちりと上まで釦が留められて、まろやかな膨らみもない、なだらかな身体。色気の欠片もないというのに、見つめていると、鼓動が早まる。目を離せなくなる。指先が震える。
慌てて、俺は視線を上げた。
「とても勉強になりました。わざわざ、ありがとうございます」
「なら良かった。何かあれば、また訊いてね」
先輩は穏やかに微笑む。俺は、詰めていた息を吐く。良かった、ちゃんと話せるじゃないか。いざ行動してみれば、何も難しいことはなかった。先輩も、俺の不審な行動を気にしている様子はなく、むしろ、こちらを気遣ってくれているようだ。それを確かめることができただけで、今は十分だった。
それでは、と俺は辞去しようとしたが、それは途中で妨げられることとなった。
「……もう、行っちゃうの?」
「え……」
何のことだろうかと戸惑う俺の前で、先輩は椅子を立つと、こちらへと歩み寄った。少し背伸びをして、いたずらっぽく微笑む。
「この前の、続き……したくないかい?」
「こ、この前の……整備の……?」
「そうじゃないよ。ほら、こっち……」
言って、先輩は俺の強張った手を取ると、自らの胸元に押し当てた。思わず、俺は唾を呑み下す。あの時と同じ感触を、今度はよりはっきりと感じて、鼓動が高鳴る。
しかし、今度こそ、俺は先輩の前から逃げ出したりはしない。続きをしよう、と先輩は言ったのだ。本当なら、あのとき、何が起こるべきだったのか。俺が逃げたために中断してしまった、それを、今から、やり直す。
俺の右手を、先輩は確かめるように、ゆっくりと撫でる。
「ひとりで、していたんだろう? 僕のことを、思い出しながら……いけないね」
何もかもを見透かす先輩の言葉に、心臓が鳴る。消え入りそうな声で、俺は、はいと答えた。
きっと、下されるのは、俺に対する罰であるに違いない。この右手は、罪を犯した。先輩の身体に触れたことも、それを糧に、寝床の中で及んでしまった行為も、何の咎めもなく済むようなものではない。
殴るでも罵るでも、何でもしてくれというように、俺は覚悟を決めて、先輩を前に直立する。先輩は、ふっと微笑むと、萎縮する俺の手を導き、そっと己の胸を撫で下ろさせる。
俺は思わぬことに、手を引っ込めようとするのだが、先輩の小さな手はそれをとどめるように、きゅ、と握り締めてきて、その薄い胸の中央に響く鼓動の速さと熱は俺の手にも伝い感じられるものであって、先輩は青灰色の瞳を潤ませて俺を見上げ、可憐な唇から熱っぽい吐息をこぼし、「こっちも、教えてあげないといけないかな?」と問う声は甘く、声もない俺の胸に、そっともたれかかって、俺はその儚い重さにうろたえながらも、細い身体を守るように、自然と腕を回して背中を抱いており、躊躇いながらも白い頤に指を掛けると、先輩は従順に顔を上げ、薄い瞼は下ろされていて、金の睫が肌に繊細な影を落とし、夢見るような穏やかな表情で、吐息混じりに、優しく「いいよ……」と告げる、その柔らかな唇は、今にも俺に奪われることを待ちわびていて、俺はひとつ深呼吸をすると、背をかがめ、先輩の薄く色づいた唇へと、少しずつ近付いて、今か今かと思うのに、なかなかその瞬間は訪れずに、鼓動は胸を打ち破りそうで、きつく目を瞑ると、ふっと柔らかな感触が唇に当たり、俺は息を詰め、味わったことのない、ふっくらとしたその柔らかさに感嘆し、感触を味わうように、幾度も繰り返し押しつける、そんな俺の不器用な口付けに、先輩は俺の頬を両手で包むと、可愛らしい舌で、小さく俺の唇を舐めてくれて、入っておいでと促し、温かく湿った口腔へと俺を導き、深い口付けを優しくリードして、丁寧に俺の舌をもてなし、その舌使いに俺は背筋を震わせ、唾液がこぼれ落ちるにも構わずに、夢中になって先輩の口腔を貪り、気付けば互いに息を乱して、絡みついては離れることを繰り返し、先輩の熱い呼吸は切ない喘ぎにも似て、俺は堪らずに、先輩のほっそりとした腰を引き寄せて密着させ、その膝を割って足を絡ませ、先輩の薄い胸をまさぐりかけるも、先輩は性急な俺の唇に指を当てて、「焦らないで……」と微笑み、俺は獣のような自分を恥じて、腰が引けかけたが、そんな俺を慰めるように、先輩は俺の手を取って、こんな風に、ゆっくり、優しくね、と囁くと、俺の手を導いてシャツの上から己の身体をなぞらせ、胸元を撫で下ろし、気持ちよさそうに吐息をこぼし、「さあ、自分でやってみて」と俺の手首を離すと、もう片腕にもたれかかって身を任せ、俺は腕の中のちっぽけな身体に、そろそろと手を伸ばし、触れるか触れないかで軽く撫でてみると、先輩はくすくすと笑って、くすぐったいよ、と言い、俺もつられてほっと息を吐き、今度は手のひら全体を沿わせて、薄い胸元から脇を通って背中へと撫でてやると、先輩は切なげに身じろぎ、そう、と小さくこぼすので、俺は確信を得て、丹念に先輩の身体をなぞり、その華奢な身体のつくり、うっすらとした筋肉の流れ、細かな凹凸を、手探りで探し求めているうちに、先輩の唇は、あ、あと短い声をこぼすようになり、それは俺の指先が、小さくシャツを押し上げる二つの頂点を擦ったとき、いっそうに顕著で、先輩の身体は俺の腕の中でひくんと跳ね、切なく眉を寄せて、んぅ、と呻くのであって、俺は試しに、そのぷっくりとした小さな頂点を指先で押してみると、柔肉の弾力がそれを受け止め、先輩は上ずった声をもらし、その声の甘さに俺は頭がくらくらとして、もっと声を聞きたさに、シャツ越しにも、うっすらとピンク色が見て取れる乳首をきゅ、と摘んでみたり、こりこりと引っかいてみることを繰り返し、先輩はうっとりと目を閉じて、こっちも、とねだるので、片腕が先輩のくったりとした身体を支えるのでふさがっている俺は、大きく手を広げることで、片手の親指と薬指で同時に両方の頂点を攻めることを試みて、先輩の小さな身体に対してそれは容易であって、同時に弄ってやると、先輩はもう堪らないといったように、ひくひくと身体を震わせて、金髪がぱさぱさと乱れて頬に貼りつき、俺の腕の中で乱れていく、先輩の姿に俺はごくりと生唾を飲み、思わず強く押し込んでしまって、先輩は高く啼き、「す、すみません」と俺が慌てて手を引っ込めると、先輩は濡れた瞳で俺を見上げ、「いいよ、やめないで、もっと……」とねだり、シャツに気だるげに指を掛けると、脱がせて、と囁き、俺は先輩を壁際まで下がらせ、そこに背中をもたれさせると、その身体を包む白いシャツの襟元に指を掛け、細い喉元の白さに息を呑み、震える手でひとつひとつの釦を外し、そっと前を広げてやると、真っ白な素肌がそこにあり、二つの尖端だけが、鮮やかに色づき、どうか摘み取ってくれと淫靡に主張して、穢れのない肌との対比に俺は眩暈がするようで、背をかがめると、先輩の腰に手を沿え、間近にその小さな乳首を見つめたので、息がかかってくすぐったいのか、先輩はふる、と首を震わせて、まるで俺の見つめる視線にも感じてしまうようで愛らしく、俺は思わず、舐めてもいいですかと問うと、先輩は優しく頷き、手を伸ばして俺の頭を抱き寄せ、胸元へと導き、俺は壁に手をついて先輩を閉じ込めると、そろそろと舌を伸ばして、先輩の敏感な箇所に触れ、軽くなぞってみると、指先でしていたときとはまた異なる弾力を舌先に覚え、押し込んだりなぞったりと、俺がそれを転がす度に、先輩は甘い声をもらして、そう、もっと、とねだり、俺の頭をぎゅ、と抱き寄せるものだから、俺はいつしか、乳首を口に含み、舐め回しており、先輩は、唇で挟んで揉み込むことや、優しく歯を立てて甘噛みすることを俺に教え、その通りにしてやると、身体は素直に歓喜し、特に、軽く噛んでやると、ひときわ感じ入った声をもらし、俺の頭を抱く腕に力を込めるのが愛らしく、こっちも弄って、という言葉のままに、俺は一方の乳首を吸い上げながら、もう一方を手探りで弄い、先輩を感じさせ、喜ばせ、蕩かしていき、そのすすり泣くような喘ぎに、俺の興奮は高まる一方で、その気持ちよいようなつらいような熱を、とうとう堪えきれずに、俺は一旦、先輩の胸元から顔を起こすと、先輩、もう、と訴え、どうしたの、と先輩は意地悪にも問うものだから、どうなっているのか教えてみせて、と言われるままに、俺は己の股間を先輩の腹の辺りに押し当てると、先輩もそんな俺の状況はよく分かっていたようで、じゃあ、一度楽にしようか、と提案すると、おもむろに俺の股間に手を伸ばし、




[ to be continued... ]
















第7回壁博新刊『或る訓練兵の恋』プレビュー(→offline

2015.07.03

back