Superiority / Sugito Tatsuki






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デポトレーラー運転室、その定位置でノートパソコンを操作しているジョイに通信が入る。ウィンドウに映ったのは、後部メンテナンスルームを背景にしたダークだった。空いた時間を利用して、チームメイトと共に独自のカスタマイズを行っているらしい。分解されたギアのパーツが並んでいるのが見える。
「何すか?」
「悪い、手が空いたらで良いんだが、ギアハウス行って取ってきて貰えるか?この前届いたやつ一式、見たいんだ。あと、この2つ繋げるのに適当なエクステンションアームも」
両手それぞれのギアを示して言ったダークの頼みを快く了承すると、ジョイは現物を確認するためにメンテナンスルームへ足を運んだ。


ギア改造が進行中のその部屋には何種ものパーツが乱雑に積まれていた。
「わー、やってるっすねー」
呟きつつジョイは、片隅に置いてある、先程ダークの見せた2つのギアに近づく。軽くギア全体を見て、結合パーツに関して頭の中に入っているデータと照合する。数秒思案すると、ジョイは小さく頷き、対象から視線を外した。

ダークとタフトは相変わらず、ああだこうだとギアを繋げたり外したり、試行錯誤を繰り返していた。どんな調子だろうかとジョイが何気なく横から手元を覗き込むと、作業に熱中していたダークが不意に手を休める。傍らの少年に顔を向けて、怪訝そうに尋ねた。
「ジョイ、お前、吸ってるのか?煙草」

「……ええ、最近始めて。何かすっきりするから」
普段ならば絡んできそうなタフトは、笑って答えたジョイを横目で見遣ると、無表情に「ほどほどにな」と一言、忠告しただけだった。それからまた自身の手元に関心を移した二人を残し、少年は部屋を後にした。

春の風が、丘の緑から、排気ガスと機械油の染み付いたキャンプに吹き降りる。遮るもののない強い日差しに、ステップを降りたジョイは少し目を細めると、トレーラー後部へ回る。シャッターの一部を手動で開くと、使い込んだ運搬ボードを発進させ、ギアハウスへ向かった。



その担当ユニット専用の倉庫へ入り扉を閉じると、間接照明の点る薄暗い空間で、ジョイは頼まれたギアを探しもせずに壁に背を預け、建築材剥き出しの天井を仰いだ。
静寂と、熱を奪われる感覚を更に引き寄せるように、瞳を閉じる。
特定の深夜を想起させる闇を作り出すように。

免罪符の様に、「言い出したのはお前だ」と、あの年長のローディは口にした。 実際、その通りだった。彼は同調しただけで、それはまた、ジョイにとっては好都合だった。

――それほどの勇気は無いわけか――
強引に優位に立とうとするほどの。面白いな、とジョイは思った。

少年には、自分が屈しているという認識は無かった。
たとえ相手が優越感を抱こうと、この状況を作り出したのは自分だから。
自分が許可を与えて、行為をさせているのだから。

ジョイ自ら望んだことだった。少しでも選択権があることを確かめたくて、僅かな自由を試してみたかった。


――それなのに。
それでは、これは何なのだろう。
この敗北感は。

あの夜、起き上がる気力もなくベッドにうつ伏せていたジョイの隣で、ジャックは何事もなかったかのように、平然とした様子で煙草を吸いながら雑誌をめくっていた。結局、自分が選択してとった行動は、何も生まず、何を変えることもなく、何も自由にはならなかったのだと、ジョイは鋭い実感を伴って思い知らされた気がした。


とりとめのない思考を振り払うように、ジョイはようやく身を起こし、本来の目的だったギアパーツを箱から取り出した。アムエネルギーを通さなければただのクリアパーツと代わりない、磨き上げられたアムマテリアルに、自分の影が映り込む。

――どうして、この鏡像は、泣き出しそうな顔をしているのだろう。


「……何でこんなことしてるんだろ、俺」
「でも……うん、面白い」
「ヒマだしね」

あんなに嫌だったのに、こんなに痛いのに、今は自分から求めるなんて。


少年は一人、笑い出した。




End.













あとがき。

ホンジョイというか、
よく分からない人であるところのジャックさんを、
ローディスピリッツでの役どころだとか
「天才ローディが二人」発言だとかから
考察しようと思っていたら
いつの間にか謎ノベルになっていたということです。

反省点
・ジャック心情、かなりループしてます。
・ジョイ君の行動、かなり不明瞭です。

例によって「missing memories」とやや関係してます。
例によってGLAY「嫉妬」がBGM。
ついでに「口唇」「誘惑」も(何)


2005.05

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