神は不可解に行動する -3-




いつまでもこうして怠惰な気分に浸っていたいのはやまやまであるが、横目で時計を確かめると、既に18時を回っている。腕の中の少年の身体ごと抱き起こすようにして、ビショップは静かに立ち上がった。
「さあ、そろそろ入浴のお支度を」
「……風呂?」
なぜかルークは怪訝そうに眉をひそめた。自分から言い出しておいて、忘れてしまったのだろうか。「特殊活動任務」などとものものしい表現でもって、暗に風呂に入れろと命じたではないか。それは、入浴行為がルークの中で、彼にしか理解出来ない厳密なルールの下に定められ、何より優先されるべき掟であるからに他ならない。だからこそ、本来なら無関心を通す筈の他人同士の諍いに、この少年はあえて口を挟んだのだ。誤解の生じようのない、いたって明快な展開である。

そのルークが、命令に従って入浴の支度を促す忠実な側近に対して、戸惑うような瞳を向けている。いつも、一度定めた時間通りに事が進まないことを極端に嫌がるのに、指定した時刻を過ぎてなお、バスルームへ急ごうともしない。
──これではまるで、ルークが部下を助けるために、ありもしない嘘をついたかのようではないかと、ビショップは苦笑した。そのようなことがある筈もないと、よく承知していながらも、夢見がちな錯覚というのはいつの間にか入り込んで思考に居座ってしまうものだから、油断ならない。どれだけ近く、傍に仕えていようとも、未だこの少年に対して幻想を捨てきれずにいる自分は、客観的にいって滑稽な愚か者以外の何者でもないだろう。
ただ、自分はそれを現実ではない幻想であると知って、明瞭な区別を働かせているだけ、まだましなのだと青年は己を慰めた。都合良く現実を解釈し、勝手な想像を膨らませて楽しむことが出来るのも、ヒトとしての高度な精神活動があってこそである。そう悪いものではない。
他愛のない幻想を、ビショップは捨て去ることはせずに、己の内へとそっと突き落として沈めた。

行きましょうか、と今一度促すと、ルークは黙って頷いた。その肩を抱いて、忠実なる側近は、白い少年をバスルームへといざなう。何か言いたげにこちらを見上げていた、透けるような淡青色の瞳に込められた意図は、結局最後まで、ビショップには分からなかった。




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#19バイクビショさんが受け受けしすぎてどうしようかと思いました。本部長にはぜひ復活して好き放題してほしいものです。

2012.02.13

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