パズルトケテル(プレビュー版)
トケナイパズルナンテナイ。
■収録内容
1.『パズルアイドル』Herbert & Elena
あの人に出逢わなければ、今の自分はなかった。幼少エレナのヘルベルトとの出逢い、思慕と決別。
2.『双子道楽』U & No
大富豪の屋敷で外界から隔絶されて育ったウーノー。ホイストは彼らを稀有な実験体として見出し、リングを与える。
3.『洞窟の炎』Bishop & Rook
旅の主従が窓の壊れたロシアのホテルで暖を取る一夜。
4.『クロスフィールド学院ガイドツアー』Pinochle & Freecell & Bishop
3期1話で留守番組のフリーセル・ピノクル・ビショップが学院内を散策しつつ思い出話。
■『パズルアイドル』Herbert & Elena
...母は、私が次第にメディアに注目されるようになって、とても喜んでいた。ようやく投資が報われたとでもいうような、彼女のほっとした表情を見られて、私は満足だった。
ただ、それから私は、少しずつ、彼女から距離を置くことにした。何もかもを彼女に相談し、彼女に決めて貰う時期は、終わったのだと思った。パズルアイドル・姫川エレナを創るのは、私だ。母にも、事務所にも、誰にも口出しされたくなかった。自分で選んで、自分で決めたかった。
そんな私にとって、活動に影響を与えることを許した、ただ一人の例外は、あの人だった。
「これは、驚きだな」
感心したようにそう言って、男は怜悧な瞳を細めた。
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。驚くほどに、出来が悪い」
天気の話でもするかのような、気のない口調でもって、男は少女の淡く抱きかけた希望を切り捨てた。手にした企画紙を、ばさりとテーブルの端に放り捨てる。
「私も暇ではないのでね。子どもの遊びに、付き合ってはおれんのだ。よくもまあ、こんなもので、ギヴァーを気取れたものだ」
テレビ局内の、会員専用ラウンジが、私と彼との面会場所だった。私は幾度となく、そこで彼に教えを乞い、課題を与えられ、自作のパズルの添削を受けた。
子ども相手に、男は容赦のない皮肉を浴びせ掛ける。これまで、大事な商品として、周囲の大人たちから丁重に扱われてきた私にとって、剥き出しの批判を浴びせられるのは、初めての経験だった。ここで泣き出してしまったとしても、誰も私を責めなかっただろう。無力な子どもが、庇護欲をそそる泣き顔を武器にして、向けられる敵意から己の身を守るのは、妥当な戦略だ。
しかし、私は泣かなかった。小さな肩を震わせ、膝できつく拳を握り締めながらも、懸命に涙を堪えていた。お世辞にも可愛らしいとは言い難い形相で、アイドル志望の少女は、投げ捨てられた直筆のパズル設計図を睨めつけていた。
男は暫し、その様子を冷たい眼差しで観察していたが、深く溜息を吐いて、背もたれから身を起こした。
「良いかね。美しさとは、パズルを貫くルールが、いかに強く、シンプルであるか、ここに集約される。これがなっていなければ、いくら外見を飾り立てたところで、駄作と言わざるを得ない。虚飾で誤魔化そうとするな。ソルヴァーの心理を読め。相手の思い込みを、焦りを利用しろ」
彼の口からなめらかに紡ぎ出される論評を、一言も聞きもらすまいと、私は身を乗り出して、何度となく頷いた。彼の指摘は、悔しいが、いちいちもっともだった。私のパズルは、穴だらけだった。どうして自分が、こんなもので満足していたのだろうかと、不思議なほどだった。私ならば、もっと上手く出来る筈だった。今度こそは、きっと上手く出来る筈だった。
一通りの指摘を終えると、彼は優雅な所作で、ティーカップに手を伸ばす。
「以上だ。次こそ、目の覚めるような、美しき作品を持ってくるように」
「は、はい!」
こんなのは、初めてだった。こんなに打ちのめされて、こんなに悲しくて、こんなに悔しいのは、初めてだった。こんなに──頑張ろうと、思うのは、初めてだった。
這い上がり、生き抜こうとする、貪欲なまでの意思。己の内に息づくそれを、初めて意識したのは、あの人のおかげであったと思う。彼は、私を子ども扱いしなかった。忙しいと言いながら、いつも私のパズルを見て、酷評し、罵倒し、やり直せと言った。私に、何度も、挑戦の権利を与えてくれた。それは、これまでどんなに頑張っても、私には与えられず、遠ざけられてきたものだった。
母だったら、何と言っただろう。こんなにパズルが下手なのに、それをさせるなんて、無駄なことだと、嘆いただろうか。しかし、私は今、パズルアイドルという唯一無二の地位を獲得している。自分にパズルの才能があったとは思わない。私は、続けることを許された。そして、続けたいと思った。そうやって、ここまで上り詰めたというだけのことだ。
パズルの美しさとは、ルールの強さ、シンプルさだと、あの人は言っていた。そうすれば、人を惹きつけることが出来る。私を貫くルールも、そうだった。強く、そして、シンプルに。それだけだった。...
■『双子道楽』U & No
...J氏は、この現実離れした光景を見せるために、客人をここまで案内したのだろうか。ただそのためだけであっても、わざわざ砂漠の真ん中まで出向いて鑑賞する価値は、十分にある景観であった。しかし、老人は、この程度で満足されては困るとでも言いたげに、「まだ役者が登場しておりませぬ。ここからが本題ですぞ」と、軽く手を叩いた。
「ウー、ノー、」
J氏は、どこへともなく呼び掛けた。年齢の割に張りがあり、よく通る声が、黄金の蓮池の隅々にまで響く。人工の蓮の花弁が、風を受けるように、微かに揺れ動いた。
気付いたときには、花々の中に、細身の影がふたつ、すっと立ち上がっている。その姿を目にした者は、まず、己の目を疑い、それから、感嘆の息を吐いたことだろう。
いずれも、十歳かそこらと見える、その二人の少年の、柳の枝を思わせるしなやかな立ち姿や、やや冷たく整った白い面立ちに感銘を受けて、というばかりではない。それ以前に、二人には、一瞬にして明白に、見る者を惹きつける特徴があった。二人の少年は、背丈から体格から顔つきから、まったく同じ造形をしていたのだ。
違うところといえば、からくり人形めいた無感動な面に落ちかかる髪の色、そして、揃いの衣装の配色のみである。一人は、輝く金髪に、朱色を基調とした衣装を、もう一人は、これとは対照的に、艶やかな藍色の髪に、濃紺の衣装を纏っていた。完全な一対となった、その出で立ちは、J氏の秘蔵のコレクションと呼ぶに相応しかった。
「さあ、二人とも。お客様を愉しませて差し上げなさい」
主人の命令に従って、双子は軽く目配せをした後、まったく同じタイミングで、軽やかなステップを踏んだ。流れるような動きで、腕を絡め、身を翻し、くるりと宙返りをする、それは東洋の神秘的な体術を連想させ、観る者の心を奪った。
二人の呼吸は完全に一致しており、伸びやかな演技には、危うさというものがなかった。お互いが、お互いの身体を、自分のもののように自由に扱い、よどみなく舞い踊る。どこからともなく取り出した扇を広げ、あるいは、房飾りのついた揃いの剣を振るい、澄んだ音を響かせる。そのさまは、まさしく一心同体というほかはなかった。
まるで重さなど存在しないかのように、双子は音もなく、花弁の上を渡り歩く。黄金の花弁、その中央に、すっと降り立った爪先が、しなやかに地を蹴って、また次の花へ。花弁は、そよ風を受けたかのように、ほんの僅かに揺れる。
追い掛けるでもなく、逃げるでもなく、ふたりはただそうして舞うこと自体を愉しむように、蓮の上で戯れた。同じ身体つき、同じ表情、同じ衣装、同じ所作。目の前で繰り広げられる、蓮の精たちの宴に、客人は熱心に見入った。
「ほう……これは、素晴らしい」
「まさに、一蓮托生というわけですな」
J氏は愉悦の面持ちで、自慢の『コレクション』の一挙手一投足を鑑賞した。そっくり同じものが並んでいるという、ただそれだけのことで、双子は何気ない所作一つを取っても、感嘆を誘う絵になるのだった。舞の技量もさることながら、彼らは、その存在自体が、取り替えの利かぬ輝きを放っていた。
もう良い、とJ氏が合図を送ると、二人は揃って、きれいに一礼をした。それから、やってきたときと同じように、音もなく、岩陰の方へと駆けていく。そこには、小さな滝が設えられている。優雅に見えて体力を消耗する運動の後であるから、喉の渇きを癒すのだろう。
演技を終えてなお、少年たちはぴたりと寄り添い、決して一定の距離から離れようとしない。その二人を、J氏は眼を細めて眺めた。
「あれは、生まれてこのかた、ふたりきりで生きておりましてな。親に愛されることも、他の子どもらと交わることもなく、成長したのです。彼らの世界には、お互いしかおりませぬ……腹の中にいたときと、今も変わらぬままに。ただの双子と思っては、大間違いですよ」
そうしているうちに、滝まで辿り着いた双子は、まず、一人が前へ進み出た。金髪の方は、ウーといい、便宜上、兄ということになっているというのが、J氏の説明であった。双子とはいえ、水場を使う優先権は、兄にあるということだろうかと客人は理解した。
流れ落ちる滝の水を、ウーが掌を揃えて受け止める。彼は、それに自ら口を付けようとはせずに、隣にいる弟、ノーの前へと差し出した。薄硝子の器を取り扱うような手つきで、ノーは差し出された両手にそっと手を添えると、水面に唇を寄せた。清廉な湧水で、喉を潤す。
自分も喉が渇いているだろうに、金髪の少年は穏やかに目を細めて、急かすでもなく、己の片割れを見守った。柔らかな唇を手のひらに押し付けてくる弟の振る舞いに、兄はくすぐったそうに微笑む。すっかり水を飲み干してしまうと、今度は弟の方が、同じように、滝から水を掬い、兄の口元へと差し出すのだった。...
■『洞窟の炎』Bishop & Rook
...夕暮れ時、待ち合わせ場所にほど近い公園で、ビショップは子どもたちと戯れる主人の姿を見つけた。より精確に言えば、子どもたちに遊ばれているルークの姿といった方が正しいかも知れない。
「ママのマフラーよりふわふわだー」
「ふわふわー」
見事な白金の髪は、子どもたちには格好の玩具である。柔らかな手触りを確かめるように、無遠慮にかき回され、引っ張られ、ルークはくすぐったそうに笑っていた。
しゃがみこんだ彼の周りには、画用紙だのキューブだのリングだのが散らばって、子どもたちは次々とそれに手を伸ばしては、ああでもないこうでもないと夢中になっている。
「あ、ビショップ」
こちらに気付いたルークが、小さく唇を動かす。もみくちゃにされている年若い主人に向けて、ビショップは、恭しく一礼を施した。
「ごめんね、行かなくちゃ」
申し訳なさそうに子どもたちに詫びて、ルークは立ち上がった。ええー、と盛大な不満の声に、少年は困ったように笑うと、ありがとうと言い残して、子どもたちの輪から抜け出した。側近のもとへと、小走りに駆け寄る。
「お待たせ」
「楽しく過ごしていらっしゃったようですね。なによりです」
「うん。仲間に入れて貰えて、嬉しかったよ」
ぼさぼさになった頭を梳きながら応じる、ルークの表情は、どこか誇らしげであった。
今夜の宿は、年代を感じさせる古びたホテルの一室だった。かつてはそれなりに華々しい姿を誇っていたのだろうロビーは薄汚れ、過去の勲章のように居並ぶ折角の調度品も色褪せて見える。
そのような有り様に、しかし、ルークにしてもビショップにしても、難色を示すことはなかった。世界を知るための旅の途上、ベッドを置けば一杯になってしまうほどの小さな部屋を二人で使うのにも、だいぶ慣れた。自分たちにとって、ホテルは眠るための場所でしかないのだから、最低限の居心地さえ確保されていれば、それで構わないということで見解が一致している。
通された客室は、薄汚れた絨毯に色褪せた壁紙と、だいふ古びて、あちこちに傷みが見て取れた。一方で、広さはそれなりに確保されており、かつては部屋を豪奢に輝かせていたであろう調度品の数々も、ひっそりと並べられている。それはまるで、最後の矜持とでもいうかのようであった。
なんだか、寒いね、と部屋に一歩足を踏み入れたルークは呟いた。室内にもかかわらず、微かな風の流れを感じて、ビショップは頭を廻らせた。
「どこからか、外気が入り込んでいるようですね」
「ん、……ああ、窓だ。寒いわけだよ」
窓辺に走り寄ったルークは、原因を見つけて、やれやれと溜息を吐いた。重々しい両開きの窓が僅かに開いて、隙間から外気が吹き込んでいる。掃除の際に開け放したまま、閉めるのを忘れてしまったのだろうか。
これから夜になれば、更に冷え込むことだろう。このままにはしておけないと、少年は窓枠に指を掛ける。
「あれ……この窓、壊れてるよ」
がたがたと窓枠を揺らして、ルークは側近を振り返った。私が、と進み出たビショップは、少年に代わって窓に手を掛けたが、立てつけが悪いのか、びくとも動かない。少しだけ隙間の出来た状態から、開けることも、閉じることも出来ない。
フロントに話して参ります、とビショップは一旦、部屋を後にした。そう経たずに部屋に戻ったとき、ルークの予想に反して、青年は従業員を伴ってはいなかった。表情には、どこか諦念の色が滲んでいる。
「窓が閉まらないのは、『仕様』だそうです。だからこそ、この宿泊料金なのだと……ランクの高い部屋ならば、用意出来るとのことですが」
苦渋の面持ちで、不本意な報告する側近に、ルークは不満を表明することはなかった。むしろ、なるほどと納得がいったように頷いてみせる。
「じゃあ、いいよ。沢山着込んで寝れば、なんとかしのげるだろう」
「申し訳ありません。ルーク様がお泊まりになるのに、このような」
「だから、いいんだよ。貧乏旅行する兄弟っていう設定でしょ。しっかり、守らなきゃ」
ルークは健気にも、そう言って笑ったが、言っているそばから、ふる、と身震いをしている。小さく呻くと、ルークは自分自身を抱き締めるようにした。
「……やっぱり、寒いね」
暖房は一応は動いているものの、相変わらず、窓の隙間からは冷ややかな外気が流れ込んでくる。それらは部屋の中で、複雑に入り混じった。...
■『クロスフィールド学院ガイドツアー』Pinochle & Freecell & Bishop
「うーん、良い天気! 絶好のお散歩日和ね」
大きく伸びをして、日本からやってきた少女は、溌剌と言った。
昨日は、九時間という時差に適応出来ずに、眠そうな顔をしていたが、一夜明け、朝日を浴びる横顔は活き活きと輝いている。折角の旅行なのだから、存分に満喫しようという、意気込みの現れであろうか。
「つっても、俺とジンは地下のパズルに行くから、関係ねぇけど」
はしゃぐ幼馴染に対して、冷静なコメントを紡いだのは、この度の彼らの英国旅行の立案者、大門カイトである。水を差された格好で、ノノハはがくりと肩を落とした。
「うう……こんなところまで来てパズル……」
「このために来たんだろうが。つぅか、お前はついてこなくていいんだぜ」
どうせパズルしかやらねぇし、とカイトは頭の後ろで手を組んだ。ここまで共に海を渡っておきながら、突然の戦力外通知に、慌てたのはノノハである。
「えっ……いや、私はカイトのお目付け役だから、離れるわけには、」
「買い物でも観光でも、好きに行ってろよ。……ルークもな」
首を回して、カイトはもう一人、日本から連れ立ってきた友人の方を見遣った。そこに佇むのは、白の衣装で固めた、白金の髪の少年──POG管理官ルーク・盤城・クロスフィールドである。淡青色の瞳に穏やかな光を湛えて、ルークは微笑んだ。
「僕は、カイトとジンを待ってるよ。あの丘の上、気持ち良さそうだ」
「わ、私も!」
仲間外れにされてはたまらないと、ノノハは急いで手を挙げる。決まりだな、とカイトは不敵に笑った。
「よし、それじゃ、ジンとパズルは俺に任せろ! 行くぜ!」
先陣をきって、少年は待ちきれないとばかりに駆け出していった。
「もう、待ってよカイト! じゃあ、行ってくるね、フリーセル君、ピノクル君」
「行ってらっしゃい。楽しんできてね、ノノハ」
彼らに英国滞在中の寝床を提供したフリーセルは、言って、にこやかに彼らを送り出す。もう一方では、POG管理官の忠実なる側近が、主人に恭しく一礼をしている。
「ルーク様、どうかお気をつけて」
「大丈夫だよ、ビショップ。それじゃ」
慌ただしくも、こうして少年少女達は、真方ジンを中心に、連れ立って森へと向かった。目指すは、かつて、カイトとルークがジンと出逢い、ひと夏を過ごした、思い出の地である。
そこで、ジンの失われた記憶を取り戻す、何らかのきっかけを得ることが、英国が誇る名門クロスフィールド学院を訪れた彼らの願いであった。
その彼らを、玄関先で見送ったところで、留守番組の一人であるところのピノクルは、一つ息を吐いた。
「帰ってくるのは、夕食時になるかな? 何か進展があるといいね」
「そうだね。折角、ここまで訪ねてきてくれたんだから……ところで、」
学友に応じたところで、フリーセルは背後を振り返った。その視線の先の壁際には、いま一人の留守番組が佇んでいる。フリーセルは遠慮がちに、その人物に声を掛けた。
「あなたは、行かなくて良かったんですか? ビショップさん」
問いを向けた先は、黒の衣装で身を固めた、長身の青年──POG管理官ルーク・盤城・クロスフィールドの忠実なる側近、ビショップである。彼は、少年の問いに対して、整った面立ちに柔和な微笑を浮かべた。
「ええ。これは、彼らの思い出を辿る旅ですから。私はただ、ルーク様のお帰りをお待ちするばかりです」
青年は殊勝に言って、慎ましく翠瞳を伏せた。主人の身を案じつつも、決して出しゃばることなく、影のように付き従う、その態度は側近の鑑といえよう。
しかし、今でこそ物分かりの良さそうなことを言っているものの、実際には、出発の直前まで、彼が何とかしてルークについて行こうと画策していたことを、ピノクルは知っている。お前は過保護が過ぎるのだと、彼は年若い主人に懇々と諭されていた。
最終的には、決して学院の敷地の外に出ないことを確約させた上で、ビショップはジン一行を見送った。平静を装ってはいるが、俯いた表情に、やや気落ちした寂しげな気配を纏っているように見えるのは、気のせいだろうか。
「……落ち込んでるよね、あれは……」
声を潜めて、ピノクルは隣の学友に耳打ちをした。白金の髪を揺らして、フリーセルは小さく頷く。
「そりゃあね……で、皆の帰りを待つというけれど、まさか彼は、夜までここに突っ立っているつもりかな……?」
「まさか、そんな筈は……ない、と信じたいけど……」
若干、語尾が心もとなくなってしまった。この青年ならば、やりかねない、というのがピノクルの正直な感想であった。
いずれにしても、彼もまたカイト達と同様に、日本からの客人である以上、学院の生徒であるピノクルとフリーセルは、それなりのもてなしをすべきところである。
ただ待つだけ、とビショップは言っていたが、遠路はるばるやってきた来訪者を退屈させたとあっては、クロスフィールド学院生の名折れである。
どうしたものか──互いに顔を見合わせた後、意を決して、動いたのはフリーセルだった。調度品の一部のように壁際に佇む青年の方へと、一歩進み出る。
「そうだ、折角ですし、よろしければ彼らが戻って来るまでの間、学内をご案内しますよ。POGの方は、既によくご存じかも知れませんが……」...
[ to be continued... ]
冬コミ新刊・POG&オルペ詰め込み短篇集『パズルトケテル』プレビュー(→offline)
2013.12.23