saihate no henkyo >> 地球へ…小説



限界接触抵抗 / Sugito Tatsuki






-1-








何とかしろ(.....)よ! 


僕をひとりにするな! どうしてこんなに苦しめる。あなたのために、どれほど僕が、息も出来ないくらいに重苦しく胸を締め付けられ、鋭い痛みが末梢まで駆け抜けるほどに心臓の働きを異常促進させられて、咳き込まずにいられないまでに喉が熱く乾ききっているのに、じわりじわりと手のひらといい首といい汗が滲み出て、今にも大声を上げて思考を捨てて、叩いて壊して滅茶苦茶にしたいと衝動に駆られていることか! 
己の内から生起する情動に伴う生理機能の作用がもたらす、この已まぬ苦しみ、身体を裂かれ、拓いて、拓いて、拓いて、次々と、捲って、剥がしていって、奥へと、もっと奥へと、深く深く、最早どこにあるのか分からない"心"の中心へと向かって、無限に続く焦燥感の侵食、薄皮を剥いて、剥いで、どこまで耐えられるかを試している、耐えられなくなったらどうなるのか? 
反らした手首の内側に、薄い薄いカミソリが、ぎりぎり皮膚に触れぬだけの僅かな間隔を保って滑っているのだ。いつそれが肉を裂き、血管を破り腱を絶つか、恐怖と、緊張と、焦燥とで、鋭敏となった感覚に思考は乗っ取られ、支配されて混沌の様相を呈す。
──いっそ今すぐ、自ら切り裂いてしまえ! 

已まないのなら、外側から、別の痛みで打ち消して、誤魔化して、なかったことにして、一時でも解放されたい。この苦しみを忘れられるのなら、どんな痛みだって進んで引き受ける。大きければ大きいほど良い。
だって、仕方がないじゃないか! 
あなたに、僕をひとりにしないで欲しい、生き続けて欲しいという願いは、もう叶うことはない。何とか保たれているだけの現状は引き延ばしに過ぎず、近いうちに終わってしまう(.......)と、決定づけられているのだから。そうして、唯一の平和的解決の手段は、あっけなく破棄されたのだから。あとはいかに、"解決"以外の術で苦しみから逃避するか、それだけだ。いかにして、あなたに生きて欲しい自分の思いを否定するかだ。 己の思うところに正直であれと言っておきながら、なんて酷い人だろう。




あなたが憎い。
あなたが嫌いだ、大嫌いだ。
どうして僕をあなたにひかれさせたんだ。
どうして僕にあなたを愛させたんだ。
どうして僕に、あなたを、際限なく求めさせるんだ! 
与えないくせに、希望など、救いなど、決して与えずに、塞がらぬ傷だけ、あなたという埋められぬ欠落だけ、残していくくせに!  僕を、ずっと、ずっと、最期の時までずっと、こうして苦しめるくせに!  あなたのせいだ、 あなたが大嫌いだ! 

あなたがこんなことにならなければ、僕は苦しまなくて済んだ筈だ。僕を苦しめるあなたが憎い。あなたをこのまま行かせはしない、あなたに復讐してやる、思い知れ、自らの過ちを! あなたがどんなに酷い者であるかを!

あなたは僕を苦しめた。苛んで、苛んで、一瞬たりとも侵食の手を休めない。そうしておいて、苦しみを、欠落を、負い続けて僕に生きろという。
あなたが憎いから、あなたを忘れ得ず、僕は生きる限り苦しみ続ける。あなたを思う気持ちは今や、全て憎悪の形をとっている。あなたが人々の記憶の中で生きる者となったとしても、僕はそうじゃない。あなたを憎み続ける。かけがえのない日々の優しい思い出なんて、もうどこにもない。あなたの全てが憎い。




さあ、これが最後だ。
(.)あなた(...)に唇を重ねる最後だ。 だって、自分(..)はもう、要らないのだから。 自分なんてものがいるから苦しいのだ。
あなたに見せてあげよう。
あなたが何よりも心を砕き優先して、大事に大事にしてきた、あなたの希望、あなたの思い、あなたの憧れ、あなたの記憶、あなたの命、あなたの未来、あなたの全て、全てであるこの僕が、どれほどもがき苦しんでいるか。いかに、あなたのせいで、こうまで滅茶苦茶になってしまったか。
ほら、よく見ると良い、あなたの全てとやらは、もう──終わっている(......)




[ next→ ]















back