純粋接触分解 / Sugito Tatsuki
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ソルジャー・ブルーは気落ちしている、とハーレイは思った。だから、こちらに背を向けた彼の薄い肩を、そっと引き寄せた。自室で唐突に部下に抱き寄せられたブルーは、しかし、意を問いもせず大人しくハーレイに身を預けた。非言語的な親愛の情の表現でもって慰めようとしている、とでも思われているのだろうとハーレイは思った。──だが目的はそんな微笑ましいものではない。
その段になるまでに悟られて警戒を呼ばぬよう、慎重に事を運ばなくてはいけない──今一度意志を固くして、ハーレイはブルーの頤に指をかけると、顔を上げさせた。不思議そうに見上げてくる、柔らかに輝く赤の瞳を間近に捉えると、沸き起こる衝動を抑えて、ハーレイはその薄く開かれた唇に口づけた。その腕の中でブルーが身を硬くする。今はまだ触れるのみにとどめ、ハーレイはブルーの心地よい感触を味わう。ブルーの腕が上がって、ハーレイの胸を押し、いつの間にか背中と腰に回された腕に固く拘束された己の身を離させようとする。唇を解放し、腕の力を緩めてやると、ブルーは一つ息をこぼし、揺れる瞳でハーレイの意図を問うてくる。いかにも器用でないその無垢な反応が可愛らしく、これからの目論みを思うとハーレイはより一層の高揚をおぼえた。
「──慰めを差し上げます」
言いつつ、手早くかつ丁寧に、ハーレイはブルーのマントを外す。続けて長手袋、白の上衣と、手際よく己の衣装が落とされていく様を、ブルーは制止をかけようともせずに茫洋として見つめていた。意味を理解していないのか、まるでこれから診察を受けようかといった、大人しくされるがままのブルーの様子は、ハーレイには好都合であった。華奢な身体に密着する黒の上下だけを纏ったブルーの腕をとる。僅かに身を引こうとするブルーの躊躇いには気付かぬ振りをして、ハーレイはやや強引に手を引くと、寝台へと導いた。ブルーの細く頼りない身体を抱き上げ、壊れ物を扱うように静かに寝台に横たえる。ブルーが身じろぎ、身体を起こそうとする前に、ハーレイは素早く寝台に乗り上げ、ブルーの肩を掴んでシーツに押さえつける。
もう引けない、とハーレイは思った。もう、捉えてしまったのだ。たとえ受け容れられずとも、もう、彼を逃がしてやれない。上手くやらなくてはいけない、急いて仕損じては二度と叶わない。──大丈夫だ、きっと彼は拒まない。
ハーレイは、ブルーを抱きたいと思っていた。そうして、より強く、確かに、彼との繋がりを得たいと望み、また、美なるものへの憧れとして、存分にその内包する魅力を顕わにして、思いのゆくまで愛でたいと、欲していた。
「大丈夫ですよ、私に任せてください──きっと悦くして差し上げます」
寝台に押さえつけられ自由を奪われて、不安げに眉を寄せ訴えるような目をまっすぐに向けるブルーに、ハーレイは優しく語りかけ、おさまりの悪い髪をそっと撫でる。ブルーは目を細めると身じろぐ。その可愛らしい反応にハーレイは微笑した。内心の急く情動を悟られぬよう、敢えてゆっくりと、頬を撫で、そのまま指をすべらせて、首もとの留金に指をかける。音を立ててそれが外されると、ブルーはびくりと身体を震わせた。ハーレイは怯えさせぬよう、出来得る限りの穏やかさと忍耐強さでもって少しずつ衣を開き、常日頃は隠し護られる白い肌を顕わにしていく。
「……嫌だ、ハーレイ、何を……やめてくれ」
衣の隙間から入り込み、直に触れて肌を探る指から逃れようと、ブルーは身をひねり、か細い指をもって、ハーレイの腕を押し止めて行為を止めさせようとする。僅かに後ろめたいながらも、その殆ど意味を持たない弱弱しい力による抵抗は無視させて貰い、ハーレイは指を繰り返し丁寧にすべらせて愛撫を続ける。慈しむ思いをもって首筋に顔を埋めると、掠める吐息にブルーが息を呑んで身を硬くする。その感度の良さが愛しく、ハーレイは熱い息に乗せて囁いた。
「心配なさらないでください、大丈夫ですから」
緊張を解きほぐすように喉元から鎖骨へ舌を這わせ、滑らかな肌を楽しむ。ふと、ブルーの手のひらが持ち上がり、ハーレイの頬に触れる。予期せぬ自発行動を、ハーレイは了承の意ととった。ブルーの掠れた吐息混じりの声に含まれる熱を捉える。
「僕が……気落ちしているのを感じて、こうして触れてくれるのか、温もりを、安らぎを、くれると──いうのか」
「そうです。あなたの傷を癒したい、あなたと心を通わせ、共に苦しみを分け、憂いを晴らし悦びを分かち合いたい」
「ああ……良かった、お前が傍にいてくれて──僕を、この孤独から、果てない闇から、どうか、救い出してくれ──
とでも言うと思ったか?」
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