アンバースデー -3-




寝て貰わなくては困るのに、どうしてもルークが寝付けないとき、愛撫によって半ば強制的に眠りに落とす手段をビショップが選ぶのは、珍しいことではなかった。手間と労力を考えると、眠剤を投与する方がはるかに効率的であることは間違いないが、ビショップは出来る限り、ルークに薬物を摂取させたくなかった。ラボラトリでの忌まわしい記憶を蘇らせてしまうから、という理由に加えて、なにより、そんな風に、あまりにあからさまな方法でもって、この少年を管理し、都合良く扱いたくはなかった。どうせ同じ結果に至らしめるならば、せめて直截、己の手を介在させたかった。愚かしいセンチメンタリズムと、そう思われようとも構いはしない。ビショップにとって、こればかりは、譲れぬルールの第一だった。
寝台の中で、ビショップの手による愛撫を受け、内奥からの深い満足へ到達すると、ルークは間もなく、深い眠りに落ちることになっている。あたかも、達してそのまま気を失ったかと思えるほどに、その反応は急速であり、一度意識が落ちると、泥のように眠りこんで簡単には目覚めない。
今のルークに必要なのは、そんな強制的な、現実からの遮蔽であるとビショップは確信していた。おそらく、これほど神経が昂ったままでは、寝ろと言ったところで眠れる筈もないだろうし、仮に出来たとして、浅い眠りで夢の中まで責め苛まれることになっては元も子もない。どっぷりと深く、簡単には這い上がれないくらいに濃密な、意識の暗い底へと落として隔離してやるためには、これ以外の方法は考えられなかった。
深い眠りに就くための、単なる手段としての行為。しかし、より精確に言うならば、それとは少しばかり違う動機もまた同時に存在することを、ビショップは認めていた。それは、本来であればごく当たり前で、言うまでもなく筆頭に来る筈の、笑われてしまうくらいに単純な動機だった。
ルークに、触れてやりたい。
撫でてやりたい。
抱き締めてやりたい。
自分で自分の腕を掴み、爪を立てる、ルークの内なるその渇望に、僅かばかりでも、応えてやりたいと思う。肌の触れ合う感覚を、温もりを分け合う感覚を、歓びを与え合う感覚を、擬似的であっても、教えてやりたいと思うのだ。ルークの探し求めている、それが、答えだからだ。
ルーク自身が、そう言って望んだのではない。彼が求めるのは、暴力的なまでの、圧倒的な束縛と規定だ。骨が軋むほどに己の腕を掴み、皮膚に爪を立てて抉った、その様子からも明らかなことだ。誰もそうしてくれないから、自分でするしかないというのなら、ルークが求めているものは正しく、そんな荒々しい力任せの行為ということになるのだろう。
ただ、この少年をずっと近くで見つめてきた、ビショップは思うのだ。ルークは、知らないだけなのではないかと。不器用なやり方を、それしか知らずに、通しているだけなのではないかと。
きつく縛りつけられるのではなく、本当は、優しく包まれたい。
乱暴に掴まれるのではなく、本当は、そっと重ねられたい。
激しく打ち付けられるのではなく、本当は、柔らかく撫でられたい。
本当の望みは、ちゃんと別にあるのに、ルークはそれをどうやって表現したら良いか、分からない。そんなものを、与えられた経験もないから、どうやって求めれば良いのか、どうしたら与えて貰えるのか、まったく見当がつかない。切実に欲するものがありながら、しかし、そこへ至る段階が、道筋が、がらんどうに抜け落ちている。
本当に欲しいものは、手を伸ばしても、届かない。だから、それに一番近いことを、自分の経験の中から一生懸命に探し出して、ルークは己の身体の上で再現しているのだろう。腕を掴み、爪を喰い込ませ、そして、首を絞めるのだろう。
そういう接触しか知らない少年に、ビショップは随分と前から、己の知る限りの優しいやり方でもって、触れてやることを続けていた。根気良く、丁重に、繰り返し触れることによって、頑なに強張っていたルークの肢体は、しなやかな姿を取り戻し、感情と一緒に鈍麻して殆ど用を為さなかった感覚も、人並み程度にまで追いつくことが出来た。頭を、頬を、背中を、足先を、撫でてやれば、ルークはちゃんと反応を返す。それはひとえに、忠実な側近による粘り強い教育の成果だった。
そこまで教え導かれても、しかしまだ、ルークの中では、それが自分の求めるものとイコールで結ばれるまでには至っていない。寂しいと言って、欲しいと言って、ルークがビショップを求めたことは一度もない。そういうとき、少年はただ独り、自分で自分の身を拘束してうずくまるのだった。
結局のところ、これが自分たちの間の越えられない境界線であって、自分に出来ることの限界なのだと、ビショップは知っている。

ルークにとっては、自分の腕であろうと、他人の腕であろうと、強く縛りつけて実感を与えてくれるものならば、どちらでも構わないらしかった。寝台の上で抱擁すると、躊躇いなく、ビショップの腕に身を預けてくる。自立を放棄した少年の儚い重さを、今や、自分だけが支えている──思うと、もし今、この腕を外してやったら、どうなるだろうかとビショップは少しばかり想像し、気付かれないよう小さく苦笑した。
儀式めいた静かな抱擁を終えると、ビショップは少年の肩を支えて、ゆっくりと寝台に押し倒した。柔らかなシーツの上に横たえられるまま、ルークは大人しく身を任せていたが、ふと、小さく唇を動かした。
「僕は、なにをすれば、……」
単純に、眠りに落とす世話をするというのではなく、行為によって「慰めて貰う」以上、何らかの見返りを寄越さねばならないと、当たり前のように信じている無垢な表情で、ルークは問うた。
ただ一方的に、何かを与えられるということに、ルークは未だ不慣れで、それでもそういう概念をまったく受け容れられなかった最初の頃よりはだいぶましになった方ではあるのだが、なにかというと「交換条件」を気に掛けて持ち出すところは相変わらずだ。POGジャパン総責任者だから、伯爵直属の管理官だから、年若い少年だから──そんな条件のどれを満たせば、何をどれだけ与えて貰えるのか、いちいち確かめたがる。与えてくれるのは、どういう理由あってのことなのか、どうすれば与えてくれるのか、詳細に把握していたがる。
そうすることで、ますます自分を縛っていることに、気付かないのだろうか──いたましく思う内心は隠して、ビショップは思案する風に口元に指を遣った。
「……そうですね。お好きな人のことでも、考えていてください」
微笑んでやると、ルークは暫し戸惑うように側近の顔を見つめて、それから、こくりと頷いた。

少しずつ衣装を開きながら、ビショップは度々、少年の頭を優しく撫で、頬に口づけた。まるで貴重な学術標本に触れ愛でるかのような、その丁重な手つきに、ルークは少なからず戸惑いの表情を浮かべた。
「……こんな、こと……してくれなくて、いいのに」
刺激して、反応を起こし、眠りに落とす、それは少しばかり複雑な機械のスイッチを切る手順と何も変わりない、マニュアル化された、ただの作業だ。そこに、これ以上のいかなる意味も見出さないルークにとって、まるで無意味に思えるビショップの行為は、不可解でならないらしかった。そんなことをして、いったい何になるのかと、不審がるような、咎めるような目を向けてくる。
およそ情緒に欠ける少年の疑問を、ビショップは軽く微笑んで受け流した。
「申し訳ありません。私の勝手で、していることです。いつでも、止めろと命じていただいて結構ですので」
ビショップに優しく撫でられたり、口づけられたりすることを、ルークはどうしても理解出来ないようだった。そういうときは、いつも戸惑うような、心細いような表情で側近を見上げてくる。安心させてやるように、ビショップは繰り返し穏やかに、行き過ぎなくらいに丁重に触れるのだが、それでもルークの身体は強張ったままであるし、瞳はますます戸惑いの色を濃くするばかりだ。抵抗の素振りこそ見せないとはいえ、受け容れているというよりは、反応に困っているという方が正しいだろう。
「僕が、……触れて欲しいと、言うから、触れてくれるのだろう」
「もちろん、嫌と仰るなら、このようなことはいたしません。しかし、あなたが仰るから、というのとも違います。命じられて、していることではありませんので」
「それなら、どうして」
いよいよ困惑の色を濃くする、その白い面に、ビショップは優しく指を添わせた。頬をなぞり、目元を撫でると、ルークはくすぐったそうに淡青色の瞳を細める。なめらかな肌の感触を指先に確かめながら、ビショップは、ゆっくりと紡いだ。
「あなたが、触れられたいと仰るのと、同じように。私が、あなたに、触れたいのです。あなたは美しい。……あなたが愛しい」
「……分からない」
小さく顔を背けて、ルークは、きゅ、とシーツを握った。
「そんな、ことは、……分からない」
呟く声は、頼りなく掠れていた。独り言めいて紡がれたそれは、ビショップの言葉が心からのものであるかどうか、分からないといって疑っている、などという低俗なレベルの話ではない。文字通り、ルークには、そんなことは──分からないのだ。
ルークは、自分が美しいと言われることも、愛しいと言われることも、理解出来ない。分かるとすれば、それは、パズルを媒介してこれを捉えた場合だけだ。
パズルの美しさは分かる。パズルを愛する気持ちも分かる。
けれど、それがどうして、自分に適用されるのかは、どうしても理解出来ずにいる。ルークの中で組み上げられた世界は、パズルを媒体として初めて成り立つものだから、それをよそにしたとき、ルークは何も視えないし、聴こえないし、理解出来ない。そこに彼の居場所は、一切、用意されていないのだ。

パズルを介さない人間関係というものを、ルークは生まれてこのかた、知らずに育った。ラボラトリの大人たちと遣り取りをするのは、パズルのことだけであったし、唯一出来た友人を繋ぎとめていられる手段も、パズルだけだった──少なくとも、ルークの側はそう思っていた。パズルを差し出すことで、友情を継続する。それは、紛れもなく、交換条件に則った契約であるに過ぎなかった。幼さゆえに気付かれなかっただけで、その本質は10年前には、既に完成されていたのだ。
彼にとって、世界の中心はパズルだったから、それを介さない関係というのは眼に入らなかったし、思いが及ぶこともなかった。そんなものを必要とせずに繋がっていられる、友人関係や親子関係、普通ならば当たり前に承知している筈の、その関係性を、ルークは知らないし、理解も出来ない。
媒体もなく、どうして、繋がっていられる。
条件もなく、どうして、信じていられる。
どうして──どうして、彼らは、何も取り引きをせずに、一緒にいられる。
彼には、あんなにも──与えられている。
自分には何も手に入らなくて──彼には。
──こんなにがんばってきたのに。
そして、否応なしに、ルークは気付かされる。思い知らされる。突きつけられる。
自分は、欠けている、と。

ルークに決定的に、絶望的に、欠けているもの。それが何であるか、ずっと近くで彼を見つめてきたビショップには、最早自明であった。
一言で言ってしまえば、「愛」と呼ばれるそれは、すなわち、親が我が子に与える類の、無条件の「承認」である。
あなたはあなたで良い、あなたはここにいて良い、そこにいかなる理由も条件も必要ない。
繰り返し、そう言い聞かせてくれる、他者からの絶対的な承認だ。生まれたことを祝福され、何もなくとも、ただ生きているというだけで存在を認めて貰えるという、原体験だ。それは、まだ自我も世界も確立していない曖昧な存在である幼子の内に、生涯にわたるアイデンティティの礎を築く、必要不可欠の第一段階であるといえよう。
あえて意識するまでもなく、当然のようにして与えられる、溢れるばかりの限りない「承認」。これが十分に得られなかった子どもは、その後、どうなるか。
著しい自尊感情の欠如、それに伴う、情緒不安定。
拭えぬ漠然たる不安感、何も縋るものなく、見捨てられた者としての孤独、繰り返し幾度確認しても足りない、不全感。
──そういうものに、ちっぽけな心を押し潰され、無残に食い荒らされた、ぼろぼろの残骸。それがルークだ。

ルークには、彼の存在を無条件で承認してくれる保護者もなければ、その代わりに心を慰めてくれる筈の慈愛の神もなかった。彼の周りにあったのは、ただ、課せられる条件と、その結果に応じて返される報酬、あるいは罰、それだけの仕組みだった。
命令を上手くこなしさえすれば、褒めて貰える。認めて貰える。ここに生きていることを、許される。それが、ルークの知る唯一の「承認」のかたちだった。明瞭なる条件付きの「承認」、それだけが、ルークの中で、自分自身の価値基準として、深々と刻みつけられてしまった。
条件、条件、条件。鉄格子の中に飼われた少年にとって、何かを与えて貰うためには、自分が何かを差し出さなくてはならないのだという「約束」が、世界のすべてだった。
パズルを作れば、赦して貰える。非情な仕掛けを施せば、褒めて貰える。大人しく言うことを聞けば、良い子だと言って貰える。
ルークが条件を満たさなければ、それらは、決して与えられることはなかった。

ただ、褒めて貰いたいだけなのに。
ただ、撫でて貰いたいだけなのに。
ただ、見つめて貰いたいだけなのに。
ただ、笑いかけて貰いたいだけなのに。
ただ、愛されたいだけなのに。
ルークにとって、それは──なんて、遠い。

見返りなく与えられるものなど、ルークはその存在すらも知らなかった。
初めてそれらしいものをくれた相手として、ルークが執着するあのソルヴァーの少年にしても、同じことだ。彼の方は、もしかすると、無条件の友情を感じていたのかも知れないが、ルークの方は、そうではなかった。
幼いルークはこう思った筈だ。パズルを作りさえすれば、カイトと友達でいられる、と。パズルを作らなければ、友達ではいられない、と。哀れにも、自分から、条件を設定してしまった。だから、ルークは最後までカイトにパズルを与え続け、その見返りとして、彼と遊び、笑い、喋り、触れ合って、ずっと一緒だと約束を交わした。
それは、情緒を離れたところにある、冷徹な計算に基づく取引の結果でしかないのに、そんな紛い物であっても、ルークにとっては数少ない拠り所であり、支えだった。以後、10年にもわたって執着し続ける結果となるほどに。

この世に無償の愛などというものがあるのだと、もしもルークが知ってしまったら──想像して、ビショップは力なく首を振った。
そうなれば、きっとルークはもう、立ってはいられまい。そんなものに構わず打ち捨てられるほど、あの白い少年は強くない──弱いのだ。
誰より強く、美しくあるために、綿密な計画に基づいて養育された筈のルークは、しかし、およそ完成には程遠く、あちこち欠落して、無残に歪んで、今にも崩れ落ちそうな哀れな姿で、何とか自分を抱き支えながら立っている。いったい、何が足りなくて、そうなってしまったのか、それは本人にも、そして彼を冷徹な目で観察し続けた研究員たちにも分かるまい。
何が悪かったのか、何が間違っていたのか、ルークには分からない。ただ、茫然と立ち尽くすことしか、許されない。それは、当たり前だ──仕方のないことだ。ルークが悪かったのではない。ルークが間違っていたのではない。この白い少年は、ただただ懸命に、「がんばって」きただけだ。ちっぽけな自分の存在を、何とか認めて貰おうとして、一生懸命に自分の出来ることに力を尽くす、健気な子どもの考えを、どうして責めることが出来よう。
ルークが今現在、伯爵の命を受けて動くことにしても、根底にあるのは「承認」への欲求だ。言うことを聞けば褒めて貰える、うまくやれば、ここにいることを許される──そんな幼い頃に教え込まされた思考回路のままに、ルークは加速的に、自らを破滅へと追いやる。
一見して、支配的であるように振る舞いながら、その実、ルークは極めて従属的なパーソナリティを有している。彼は、誰かに頼らなければ、生きていけない。誰かによって、規定されなければ、自分のことも分からない。自尊感情というものが、根底のところで欠けているから、命令に従うことにしか、自分の価値を見出せないし、言われるままにしか、動くことが出来ない。誰よりも緻密に、優雅に駒を操るルークは、彼自身、その名の通り、上等の駒そのものだ。
そういうルークは、だから、とても従順な「良い子」なのだ。否、「良い道具」と形容した方が、より実態に即しているだろうか。誰も、道具に意思など求めない。そこに良い道具があるならば、存分に役立て、酷使し、壊れるまで使い切ってしかるべきである。道具の制作者、所有者、使用者には、その権利がある。己の意思を持たない道具である以上、そんな扱いに異議を唱えることは──出来ない。

歪に欠け落ちた、不完全な存在。美しく調和した至高の比率には程遠い、ただの紛い物。自分が失敗作であることを、ルークはおそらく、どこかで了承している。だから、それを認めたくないといって、抗っている。当然だろう、いったい誰が、これまで信じてやってきた人生を、すべて最初から失敗だったと認められようか。認めたうえで、これから新たなスタートを切るのだと、なおも顔を上げるなどということが出来ようか。そんなことが出来るのは、よほど神経が図太いか、あるいは、強靭な精神を備える者だけだ。
ルークは──強く、ないのだ。かわいそうなくらいに、弱く、脆い。彼を取り巻く誰もがそれを承知していながら、これまでに投資した時間と労力をまるで無駄だったと認めることが気に入らないというだけの理由でもって、応急処置を施しながら、無理矢理に動かし続けてきた。その結果がこれだ。
誰もいないのだ──ルークを愛してやれる者は、どこにもいない。彼が本来、幼い頃に当たり前のようにして得られる筈だったのに、得られなかったものを、今更埋め合わせてやることは、誰にも不可能なのだ。「与えられなかった」子どもとして、ルークはここまで来てしまった。幼子の生きる力というのは恐るべきもので、いかに不自然で歪曲して欠落した環境であろうとも、そこに適応して自らを方向づけていくことが出来てしまう。そうやって、なんとか必死に世界に適応して、これが一番良いのだと思ってやって来たルークを、いったい、誰がきれいに作り直してやれるだろう──そんな権利が、あるだろう。

──あなたの人生は、最初から、間違っていたのです。
やり直しは、出来ません。
間違ったまま、歪んだまま、欠けたまま、あなたはもがき苦しみ、傷ついて、終わるだけです。
そんなことを、伝えてどうなる。そんな、救いようのない現実を突きつけられて、ルークはどうなる。彼に代わりに新しい希望を用意してやる準備もないのに、新しい人生を歩ませてやるつもりもないのに、真実を伝えて哀れな少年を突き落とす、そんな無意味で悪趣味な行為を、ビショップはしたいとは思わない。十分だと思うのだ──ルークは、既に十分、傷ついてきた。どうして、これ以上の罪科を、その細い背中に負わせることが出来るだろうか。ぼろぼろに欠け落ちた彼に、決定的な最後のひと押しを、加えることが出来るだろうか。
そんなことは免罪符にはならないと、あるいは、人々が言うのならば、構わない。もとより、力ある誰かの承認を得て己の後ろ盾にしようなどとは、ビショップは考えてはいない。これは、どこまでも身勝手な、自己満足の行為に過ぎないのだと、よく承知している。ルーク自身の意思も望みも考慮せず、何も分からぬ少年に、都合良い考えを押し付けているだけだ。
これ以上、ルークを傷つけたくない。なんとか、護ってやりたい。そんな一方的な思いで、自分に酔っているだけと言われれば、否定はしない。
──それでも。
たとえ、誰の賛同も得られないとしても。
ルーク自身が、望まないとしても。
こればかりは、譲ってやることは出来ない。自分の勝手な考えを、突き通させて貰うのだと、はじめからビショップは決めていた。




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