Giver Lovers(プレビュー版) -1-






■NeuTRal
[ Herbert&Bishop&Rook ]

寝台を雪崩落ちたカードは、音もなく、柔らかな絨毯に散乱した。二つとして同じもののない、赤と黒の絵柄が、無秩序に床を彩る。遅れて、ぱら、ぱらと数枚が、余韻を残して舞い落ちた。
まだプレイヤーの手に馴染む前の、真新しく、張りのあるトランプである。側面の清らかな白さも、目に眩しい。しかし、表も裏もなく派手にばら撒いておきながら、それを慌てて拾い集めようとする者は、この室内にはなかった。
カードを床に散らばらせた張本人は、寝台に仰向けて身を沈め、微動だにしない。たっぷりと厚く羽毛を詰め込んだ掛け布団(デュベ)の上、赤と黒のカードを下敷きにして横たわる、それは、白い少年であった。
色素の抜けきった白金の髪は、それこそ羽毛に似て、たっぷりの空気を含み、見るからに柔らかい。少年の小さな顔は、その髪に半ば覆い隠されていたが、垣間見える乳白の肌は、きめ細かく整って、疵一つないなめらかさを誇る。
繊細な睫に縁取られた瞳は、やはり色素の薄い淡青色で、ガラス玉のように透き通っていた。天井を仰ぐ、その表情に、子どもらしい柔らかさや甘さは、微塵も感じられない。血の気のない白い頬と相まって、物言わぬ冷たい人形の印象を、見る者に与える少年であった。
ただし、人形であるとすれば、持ち主はいささか、扱いが乱雑であるといえよう。少年の純白の衣装は大きく皺が寄り、捲れ上がった長い裾が、身体の下敷きとなっている。
本来ならば、背筋を伸ばして直立するか、デスクに向かうことしか想定されていない衣装で、だらしなく寝台に横たわる姿は、場違いであるという他はない。それも当然のことで、なにも彼は好きこのんで、自ら寝台に飛び込んだのではなかった。
いつも、少年が眠りに就くときは、必ず忠実なる側近が付き添い、衣装を脱がせ、寝台に横たえて丁重に掛け布を整える手筈となっていた。少年は、ただ側近の手に身を任せ、彼のためだけに最も心地良いように準備された寝室で眠りに就く。
夜ごと繰り返される儀式に、例外は無い。正装のまま寝台に上がることもなければ、疲れたからといって、デュベをめくりもせずに身を投げ出すこともない。そもそも、側近に導かれなければ、少年は自分が休息を必要としていることに気付けないし、眠ることも出来ないのだ。
それが、今や無造作に投げ出されたかのようにして、羽毛の掛け布に身を沈めている。起き上がろうという意思も見せない。
無感動な瞳で、少年は無秩序に散らばるカードを見遣った。人形のように白く整ったその顔が、横合いから、無造作に掬い上げられる。

「──どこを見ている」

酷薄な響きを宿した男の声は、問い掛けというよりは、威圧という方が正しかった。
少年自身のものではない、骨ばった指先が、唇を柔らかくなぞって押し込む。寝台が軋み、落ちかかる影が、檻のように白い少年を覆った。
自由を奪われながら、少年は抵抗をしようとはしなかった。ただ、淡青色の瞳を上げて、己を組み敷く相手を映すだけである。その瞳も、ガラス玉めいて透き通り、いかなる熱も感情も、すっかり欠け落ちていた。
従順な態度が気に入ったのか、少年に覆いかぶさった男は、ふっと笑声をもらした。それで良い、とでも言いたげに、切れ長の瞳を細め、唇を歪める。
その面立ちは、高慢な態度に似つかわしく、怜悧に整っていた。冷笑を浮かべる面に、よく手入れの施された艶やかな黒髪が影を落とす。均整のとれた長身といい、黙って立っていれば、まず間違いなく美形の範疇に含まれるといってよい男だった。
しかし、腕の中に閉じ込めた少年を見下ろすその視線には、愉悦と嘲弄以外の何物も含まれてはいなかった。上段に構え、相手を見下すことに慣れきった人格を、子ども相手に隠そうともしない態度は、いっそ清々しくさえある。それだけの傲慢な振る舞いが許された男だった。
長い指を獲物の顎に掛け、男はじっくりと品定めするように、角度を変えて無遠慮に眺め回した。ぐ、と触れるばかりに顔を寄せ、声音だけは甘く囁く。

「夜は長い──少しは愉しませてくれたまえよ、総責任者殿」

無理やりに顔を上向けさせられながら、少年は抵抗することはなかった。といって、従順というのとも異なる。反抗的でもなく、協力的でもない。少年はただ、自ら行なう一切の働きかけというものを持たなかった。
積極的な行動も、意思も示さぬその様子は、白く無感動な面立ちと相まって、人形めいた印象を強めるばかりである。服の上から、ねっとりとした手つきで腰を撫で上げられても、少年の顔色は変わることがなかった。
夜は長い──男の台詞通り、それは時を刻み始めたばかりだった。本来、このような時間に、このような場所で、このような扱いを受けることは、少年のタイムスケジュールには組み込まれていなかった。それが狂わされてしまったのは、いったい、いつからであっただろうか。
今宵、この部屋を訪れたときから、仔羊は周到な罠の中に追い込まれていたのだろうか。あるいは、自らすすんで、祭壇の上に身を投げ出したのだろうか──つい先程まで興じていた、白と黒の盤上のゲームで、彼がそうしたのと、同じように。
黒の王が勝利を宣言し、白の王がそれに屈した、あの瞬間から、こうなることは、定められていたのかも知れない。




[ 中略 ]




「……ルーク様? どちらです、……」

がらんとした室内に響く青年の声音は、少しばかり、戸惑いの色を含んでいた。
主人の執務室を訪れたビショップは、そのデスクに在るべき姿がないことを見て取って、ひとまず周囲を見回した。とはいえ、台詞とは裏腹に、室内に人の気配のないことは、足を踏み入れた瞬間に悟っている。
人形のように椅子に腰掛け、身じろぎひとつしないルークであっても、その気配のあるなしを、忠実なる側近は敏感に察知することが出来た。どこに隠れていようとも、どんなに微かであろうとも、主人の気配を見過ごすわけがない。
散歩だろうか、と青年はデスク背後の大窓に寄った。窓の外には、POGジャパンが誇る広大な研究施設の数々が、ひとつの街並みを形成している。それらに静謐なる光を注ぐのは、夜空に浮かんだ白銀の天体である。淡い光を纏う月を、ビショップは目を細めて見つめた。
何も言わずに、ルークが姿を消すことは、時々あって、その度にビショップは、行動予定は事前に知らせて貰わなくては困るといって、年若い主人を諌める。その場では素直に頷くルークであるが、忘れた頃になると、また黙って、どこかへ行ってしまうのだ。
言い訳は、たいてい「散歩」である。それ以上の追及は、ビショップには出来ない。側近はあくまでも側近であり、ルークの監視役ではないのだ。自分が心配だからというだけの理由で、主人の動向を二十四時間、把握していたいなどと言い出せる筈もない。職務と、そうでないものの線引きは、青年の中では明瞭になされている。少なくとも、本人はそう思っている。
ただ、今宵ばかりは、いつものことといって済ませることに躊躇いがあった。今夜は、いつもの夜ではないからだ。異質なものが、すぐ近くに──中枢にまで、這入り込んでいる。見上げた空では、重く垂れ込める雲の幕が、月を呑み込みつつあった。

POG極東本部長、ヘルベルト・ミューラー。

あの男が、穏便に視察とやらを終えて帰るものとは思えない。必ず、何かを仕掛けてくる筈だ──ビショップは苦々しく眉を顰めた。単なる憶測を超えたレベルで、青年は警戒心を抱いていた。
実際のところ、ビショップはルークに仕えるより以前から、ヘルベルトを知っている。と聞けば、己の所属する組織の有力人物を知っているのは当然ではないか、と人は言うであろうか。
更に踏み込んで言えば、その頃からヘルベルトの方もビショップを知っていたし、両者の間に、プライベートでチェスゲームに興じる以上の関係性があったことは、否定出来ない事実だ。
組織に参入して以来、己の最も後悔すべき点は、あの男と僅かの間だけでも、親密な間柄になってしまったことであると、ビショップは悔やんでも悔やみきれずにいる。
あの頃の自分は、甘く、愚かで、人を見る目というものがなかった。外面ばかりは良い、あんな口先だけの男を、まるで今後の組織を率いるカリスマか何かのように錯覚していた。その寵愛を受けようとして、かつての自分のしたことを思うと、今すぐ短剣で喉を突きたくなる。
忌まわしい記憶を、ビショップは溜息とともに振り払った。昔の話だ、最早あの男とは、何ら情緒的な繋がりは無い。その上で、やはり、言えることは一つだけある。

あの男は──危険だ。

既に、身をもってそれを知っている自分や、配下の者たちにとって、ではない。ビショップにとって、案ずるべきはただ一人、己の年若い主人のことのみに他ならなかった。
肺の辺りに、わだかまるような気分の悪さがあった。それを何かの予兆であると見做すほど、ビショップは迷信深くはなかったが、一つ溜息を吐いて、踵を返す。
今すぐにでも、調べる必要があった。ルークがどこへ行ったのか──何をしているのか。
施設内を網羅する監視映像の記録を探るべく、青年はモニタールームへと急いだ。



「…………」

ぴく、と少年の肩が僅かに跳ねた。

「うん? ああ、切ってしまったかね」

何でもないことのように言って、ヘルベルトは一旦、刃を動かす手を止めた。男の手によって、今や、高潔なる純白の衣装は見る影もなく、襟元から腹部まで切り裂かれていた。
どれどれ、とわざとらしく神妙な手つきで、ヘルベルトは衣装の裂け目を開いた。布きれの下から、あらわになった胸元は、眩しいほどに白く、なめらかに肌理が整っている。小さく上下する、その胸の中央に、すっと一筋の赤い線が走っていた。

「……ここか。構わんだろう、良いアクセントになる。……おや、思ったより深いな。こんなに溢れてきた」

はじめは、うっすらと細い線に見えていた傷口に、小さな赤い玉が結んだかと思えば、みるみるうちに膨れてこぼれ落ちる。
白い肌を伝い落ちる、鮮烈な色を、ヘルベルトは指先に掬い上げて眉を寄せた。嘆かわしげに首を振ると、汚れてぬるつく指先を、ルークのなめらかな腹に擦りつけて、無造作に拭う。白い肌の上に、落書きのように、掠れた赤い軌跡が描かれた。
役目を果たした短剣を脇に置き、男は目の前に晒された胸を、品定めするようにねっとりと撫でさすった。見た目に違わず、少年の柔肌はみずみずしく、なめらかな感触でもって男の手を受け止める。
およそ光を知らぬ乳白の肌にあって、小さく胸元に盛り上がった柔肉だけが、淡く染まっている。目についたその箇所を、ヘルベルトは軽く引っ掻いた。ひくり、とルークの肩が強張る。

「ほう。人形のくせに、一人前に反応するのだな」

これは面白い、と男は小さな性感を指先で転がした。骨ばった指の合間で、柔肉はみるみるうちに、硬く立ち上がる。
鮮やかに色づいた尖端を、爪の先で擦ってやると、白い身体は面白いように背を跳ねて反応した。薄く開いた唇からこぼれる吐息は、隠しきれない熱を含んでいる。

「子どもと思ったが、よく心得ているではないか。誰に教わったのかね」
「ふ……、や、ぅ」

赦しを乞うように、ルークは両手でもって、圧し掛かって来る男を押し返そうとする。抵抗と呼ぶにはあまりに可愛らしい反応に、ヘルベルトは苦笑した。

「大人しくしていろと言っただろう。手間のかかることだ」

言って、慌てずに少年の両手首を掴み上げる。あ、と小さくルークの唇が震えた。そのまま、頭上にまとめ上げてやれば、最早、獲物に逃れる術はない。切り裂いた衣装の切れ端で、ヘルベルトは少年の腕を縛り上げた。
抵抗を封じたところで、柔らかな白金の髪ごと、男はルークの頭を無造作に掴んで、枕に押し付けた。それから、妙に優しげな手つきで、ゆっくりと髪をかき混ぜる。

「きれいなものだ。こうも白いと──汚し甲斐がある」

皮肉げに口元を歪めて、男は少年の首元に顔を伏せた。浮き上がった鎖骨に唇を寄せ、きつく吸い上げる。嫌がるように、ルークは頭を振ったが、きつく縛られた腕の拘束が外れることはなかった。
なめらかな乳白の肌の上に、男は次々と、紅い刻印を残していった。それは愛着や欲望のゆえではなく、ただの遊び半分でしかなかった。それでも、込められた意図が何であれ、肌の上に濃密に施される愛撫に、少年の肉体はいちいち反応を返してしまう。

「んっ……、ぅ」

ぎゅ、と目を閉じて、ルークは押し殺した吐息をもらした。容易いものだ、とヘルベルトは唇を歪める。

「淫猥な身体だ。いつも、こうして側近にご奉仕させているのかね」

愛撫する箇所を移動するごとに、男の長い黒髪が、少年の身体に落ちかかり、冷たく撫でる。柔肌をくすぐる毛先の感覚が不慣れなのか、ルークはもどかしげに身じろいでみせた。
それを分かっていながら、ヘルベルトはあえて髪をかき上げることなく、背中を流れ落ちるままに任せた。よく手入れの施された、艶めく黒髪が、ルークの敏感な肌を掠め、柔らかくなぞって弄ぶ。男の指先と唇で施されるものとは、また違った刺激に、少年の身体は小さく震えた。
無防備に晒された脇から腰へのラインを、ヘルベルトはねっとりと両手で挟み込むようにして愛でた。肉の薄い胸、肋骨の感触を指先に捉えながら、柔らかな脇腹、皮膚を押し上げる腰骨へと、淫猥に撫でさする。
男の長い指が肌を這いまわる感覚は、着実にルークを追い詰めた。息を乱して、ルークは枕に頬を擦り寄せる。抵抗らしい抵抗をしてみせないのは、無駄なあがきであると、その聡明な頭脳で理解し、諦めているのか、あるいは──

「──その気になってきたかね」

少年の顎を掬い上げて、ヘルベルトは酷薄な笑みを浮かべた。確かめるように、指先で輪郭をなぞってやると、ルークは目を伏せ、切なげに睫を震わせる。

「光栄に思うがいい。この私が、情けをかけてやるというのだからな」
「……ん、」

不意に喉元に口づけられて、ルークは小さく声をもらした。非難というには、その響きは、あまりに甘い。首から鎖骨へと、唇での愛撫を続けつつ、ヘルベルトは問う。

「正直に言いたまえ。嫌なのか、そうでないのか」
「……い、や…」

殆ど吐息に掠れるばかりの声を、少年は震える喉から絞り出した。はぁ、と一つ息を吐き出して、緩慢に瞳を上げる。
ガラス玉めいた淡青色の瞳は、今は、熱に浮かされたように潤みを帯びている。己を組み敷く男を、じっと見つめて、ルークは薄く唇を開いた。

「……じゃ、ない」

それだけ紡いで、後はもう何も言うことはないとでもいうように、口を閉ざす。ともすれば、熱烈な告白とも聞こえる応答を得て、ヘルベルトは愉快げに唇を歪めた。
とはいえ、台詞の内容とは裏腹に、ルークは気恥ずかしげに目を伏せているわけでもなければ、可憐に頬を染めているわけでもない。場面に似つかわしくないほどの無感動な在りよう、そのままである。
果たして、自分が今、どんな台詞を吐いたか、その意味を理解しているのか──そんな疑問に対する答えは、決まっている。理解しているわけがない。否、そもそも、「理解」するような「意味」など、もとより、その言葉のどこにも含まれてはいないのだ。
ルークの発した、「嫌ではない」という台詞、それは言葉通り、積極的に嫌悪を抱くほどの理由に欠けている、というだけの意味でしかない。この白い子どもの思考回路は、一般から少々逸脱している。感情表現に欠けたガラス玉の瞳の奥に、いかなる好悪の判断基準の存在も、似つかわしくはない。
ルークにとって、世界は等しく、同程度の、薄い関心しか持ち得ないものだ。好き嫌いを述べるより前に、そもそも、興味を持っていない。だから、嫌かどうかと訊かれれば、その通り、嫌ではないと応えるほかはない。
ルークの言葉には裏もなければ深みもない、ただの機械的な応答だ。間違っても、恥じらいや躊躇いゆえに、間接的な言葉を選んでいるわけではない。理解していながら、ヘルベルトはあえて、その答えに通俗的な意味合いを付与した。

「嫌でないなら、悦いということだ。それも分からないとはな」

嘆かわしげに肩を竦め、男は縛り上げられたルークの腕に手を伸ばした。きつく結んでおいた布切れを、解いて自由にしてやる。
久方振りに解放されたというのに、ヘルベルトが手を離すと、少年の腕はそのまま、くたりとシーツに落ちた。抵抗の意思は、最早どこにも感じられない。

「──分かるまで、教えてやらんでもないがね」

冷笑を浮かべて、男は白い身体への愛撫を再開した。
楽器でも奏でるように、ヘルベルトの冷たい指は、情感を込めてルークの上を滑るのだった。奏者の腕前が良ければ、寡黙な楽器であろうとも、たちまち豊かな音色を奏でてしまう。爪弾く指先の、緩急をつけた微細な動きを、全身へ敏感に響かせてしまうのだ。
男は決して、自分自身の欲望のために、ルークを奏でるのではなかった。それは、いかに上手く、美しく道具を扱えるかどうかを披露する、儀式であるに過ぎなかった。
熱を持たぬ指先に煽られて、ルークは一方的に高められ、乱される。すべては、男の冷静な眼の前にさらけ出され、その手の内に管理され、自由に弄ばれてしまうばかりである。屈辱的な立場に甘んじながら、可憐な唇はどうしても、熱を帯びた吐息をこぼさずにはいられない。




[ 中略 ]





「……ルーク様」

覆い被さる格好で、少年の白い肢体を己の影の中に閉じ込めて、ビショップは切なげに囁いた。

「大丈夫ですよ。……きれいにして、差し上げますからね」

安心させてやるように、穏やかに微笑んで、青年はルークの耳朶に唇を寄せた。美しい骨格の指先が、端末画面へ伸びて、映像の再生を開始した。
どこを、どのように触られたのか、ビショップは丹念に映像と見比べつつ、ルークの身体を検めた。

「……ここを、弄られたのですね」
「っ、ん……う、」
「そう、そんな、はしたない声を上げて」

嫌がるようにもがくルークの四肢を、青年は慌てずに押さえ込んで、抵抗を封じた。丹念に泡を盛りつけたかと思えば、塗り込めるように執拗に肌を擦る、愛撫とも呼べない行為は、ルークを消耗させるばかりだった。
室内に籠った熱のためか、それとも、それ以外の理由によってか、ルークの白い肌は薄く色づき、艶めかしく火照っている。しかし、きつく目を閉じた表情からは、苦痛しか感じることが出来なかった。
どうして、そんな顔をなさるのです、とビショップは痛ましげに眉を顰めた。

「先程は、もっと、善がっていたではありませんか。……あの男の方が、感じるのですか」
「ひ、ぅ……」

腰骨の辺りに、不意に冷水を浴びせられて、ルークは背を跳ねた。ビショップが再び、シャワーを捻ったのだ。
シャワーヘッドを近寄せ、あるいは遠ざけて、ビショップは少年の柔肌に刺激を与える。敏感に高められた肌は、降り注ぐ水滴の一粒一粒さえも、明瞭に感じ取ってしまう。押し流された泡が、肌をなぞって伝い落ちる、幾筋もの感覚に、少年はもどかしく呻いた。構わずに、平然たる表情で、ビショップは作業を続ける。
脇腹の上へ、円を描くようにシャワーを浴びせられて、びく、びくとルークは背筋を震わせた。時折、上ずった声がもれるのは、飛沫が期せずして、鮮やかに色づいた胸の尖端をくすぐるためであるらしい。
いよいよ、そこへ直截、浴びせかけてやると、刺激が強すぎたのか、ルークは声もなく身悶えた。慰めるように、側近の指先が、可愛らしい乳首を摘み、柔らかく捏ねる。

「……ここが、悦いのでしょう」
「ぅ、っあう……」
「それから、ここも」

呟いて、青年はルークのひくつく首もとに顔を埋めた。柔らかな耳の付け根、首筋、鎖骨へと、丹念に舌を這わせては、小さく吸い上げる。それは、気まぐれではなく、先の男が為した手順を、そっくりそのまま、なぞっていた。
白い肌に散らされた紅い鬱血跡を、上から消し去るように、ビショップはひとつひとつ、唇を寄せては、強く吸い上げた。水を被って冷えた肌に、再び、温もりを与えていく。バスルームに、切ない喘ぎと、淫猥な水音が反響した。

「ふ、や……ぅ、」

どうか、赦してくれというように、ルークの震える唇から、嗚咽がこぼれ落ちる。

「……あなたのために、しているのですよ」

濡れた唇の合間に、ビショップは半ば強引に、揃えた指を割り入らせた。抗って顔を背けようとするのを許さずに、口腔をくちゅくちゅとかき回す。
冷えた身体の中でも、そこは温かく潤んでいた。柔らかな弾力と温もりを確かめるように、長い指が内壁を、ねっとりと探る。

「ん、っう…、ふ」
「あの男には、どんな風にされたのですか。教えてください……すべて、洗い流さなくては、いけません」

ここも、とビショップは白い胸の中央に指を這わせた。忙しく上下する薄い胸に、一筋の赤が、細く走っている。それを見つめる翠瞳に、荒々しい情動の色が浮かぶ。

「っあ……」
がり、と爪を立てられて、ルークは大きく仰け反った。



[ To be continued... ]




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冬コミ新刊『Giver Lovers』より、第1話目『NeuTRal』(ヘルビショルク)プレビュー(→offline
2012.12.22

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